脳内風景

□最後の空は朱い空
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「あんな風に笑ってるから、疲れたのかな?」
青い青い空の下。
少女はこの一ヶ月考えていた。
兄の台詞の意味を。あの微笑みの理由を。
「あの日は誕生日だったのよね…変わる事は、それ程怖い事だったの?」
自分の人生を終わらせる程…
心内でそう続けて、少女はフェンスの前に立った。
「死ぬ前の空は…綺麗だった?」
網状のフェンスに手をかけて、空を仰ぎながら呟く。
何故怖がったの?
何故恐れたの?
何故微笑んだの?
何故疲れてしまったの?
何故癒す方法を考えなかったの?
何故思考を止めてしまったの?
何故死を選んだの?
何故?何故?何故?
「ああ、何だか少しだけ…」
少女は“考え”ていた。
分からない事を分からないままにするには、少女は“思考”を重んじ過ぎた。
「少しだけ…分かったわ」
考えて考えて考えて。
「疲れるって、こうゆう事ね」
ふわ、と。少女は優しげな笑みを浮かべた。そのままフェンスに腕を伸ばし、足を掛ける。
変わる事。恐れる事。疲れる事。考える事。
何故変わるの?
何故恐れるの?
何故疲れるの?
何故考えるの?
考えて考えて考えて、
「やっぱり分からない」
考えて…
分からない?
「ゾッとするわね」
一歩。
フェンスを上り、降りた場所の足場はほんの一歩の幅しかない。
「矛盾してる?分からなかったからこそ、理解できるなんて…そう言ったら」
死んだ兄へ投げた言葉。
もちろん返事ななど帰っては来ない。
「私も…疲れたわ」
少女は満足そうに微笑んで、その一歩を踏み出した。
青い青い空に、一つの影が浮かんだ。


薄れゆく意識の中に、
少女は兄の微笑みと、
一瞬かすめた黒い影と…
朱く輝いた特別な空を、
いつまでも
いつまでも
眺めていた…








end
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