*太陽の扉*

□川の流れのように
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起き上がって、私に向き直ったそれは、以外にも若かった。
薄汚れた布は薄手のコートのようで、フードで顔の半分は隠れていた。
それでも、ちらりと見えた顔が、以外にも若いことに驚く。
もっと年を取って、猛獣のようなものだと思っていた。
ホームレスは何も言わずに私を見上げてくる。
その目が、小さな子供のように純粋さを持っているのが分かった。
助けを求めるような、欲望に満ちた目をしていない。
私は、落ち着いてきて、外が晴れていて気分もよかったからそこに座り込んだ。

気分がよくなければ、滅多に外には出ない。
休みでも家の中にこもって、昼間で寝て、本を読むか面白くも無いテレビをつける。
そうやって時間を潰して過ごすしかやることが無かった。

「あの、剥いてあげますから、犬を預かっていてもらえますか?」

私はその人に犬の綱を差し出す。
林檎と引き換えに、犬鍋にされるのではと不安もよぎったが、この人はそんなことはしないと思った。

「犬、嫌いでしたら、その辺に繋いできます」

なかなか手を出さないので、近くに繋げる場所が無いか見回す。

「大丈夫だ。可哀相だ」

突然声が聞こえて、驚いてしまう。
言葉を交わすことを忘れてしまったかのような、少し変わったしゃべり方だった。

「じゃあ、お願いします」

そう言って、綱を渡す。
それなりに人懐こい犬であったが、その人にもすぐに懐いていた。
あんまり上手に向けませんよ。と念を押してから、林檎へと手を伸ばす。
綺麗で、形もいいものだった。
皮のまま、そのまま食べても良さそうなものだ。
林檎をむき始めると、匂いを嗅ぎつけて犬が暴れだす。
食い意地が張っているのだ。

「ケン!」

私が声を張り上げると、犬と一緒にその人もびくりと背筋を伸ばした。

「あっ、ごめんなさい。犬の名前なの」

少し照れくさくなって、ごまかすように言った。

「あぁ」

その人は納得したかのように、また背を曲げる。
こんな風に過ごしていることが、少し不思議な感じがした。
綺麗に皮をむいた林檎をその人に手渡す。




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