*太陽の扉*

□渦
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「いらっしゃいませ〜」

街角の小さなコンビニで、やる気の無い声が応えた。
平日の午後特有の、のんびりとした空気が世界全体を包んでいるようにも思えた。
店員は客が来たというのに、レジで腰を下ろしたまま雑誌を広げている。
10代後半の、学校も陸に出ていない少年のように見えた。
何でこんな奴が平然と生きていられるんだ。
朝河正吾は、自動ドアの前に立ったままそう思った。
コンビニの中を見渡すと、正吾の他に客はいないようだった。
小さなコンビニと言っても、大通りに面していて、時間によればそれなりに人は入っている。
いつ人が着てもおかしくはない。
あまり時間はかけられないな。
もう一度心の中で計画を確かめると、ポケットへと手を伸ばした。

こんな時間に客が来るのは珍しいと思いながらも、面倒くさいという気持ちの方が強かった。
レジに広げた雑誌をパラパラとめくる。
頬杖をついたまま、ページに目を走らせていく。
特に面白い記事はない。
新しいバイクだとか、夏の流行の服だとか、面白みのかけらも無い。
足音がして、そのまま顔をあげる。
それなりに整った顔の青年が立っていた。

「なんすか?」

じっと見てくる男に声をかけ、ゆっくりと腰を上げる。
声をかけても返事は無く、品物も持っていないようだ。
少し気味悪く感じながらもレジの前に移動する。

「おい……」

「はい?」

一気に緊張が走った。
振り向いた目の前には、鋭く尖ったナイフが自分に突きつけられていた。
本物だろうか?
それとも、ただの玩具か?
ナイフの冷たさと頬に痛みを感じた。

「……っ」

何なんだ?
薬物をやって壊れたのか?
俺にもそんなダチがいたな、など考えながらも、突然のスリルを楽しめる状態では無いのははっきりしていた。

「おい。それ以上傷付けられたくなかったら、金だしな」

有り触れた台詞だ、と吹きだしそうになる。
こういう危機が迫ると、人間と言うものは感覚がずれて来るものなのかもしれない。

「金だ」

男がもう一度言った。
台を乗り越えて、こちら側に来ていた。
さっきより近くにナイフがある。
仕方なくレジスターを開く。
手を伸ばす前に、横から手が伸びて札束を掴んでいった。









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