*太陽の扉*

□川の流れのように
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「寒いのによく、来るな」

二・三日して、私はまた同じ場所へと足を向けた。
その日は、晴れているとはとても言いがたく、町全体が銀世界へと変わっていた。

「あっ、こんばんは」

私がトンネルに行くと、そこにセセラギさんの姿はなかったが、すぐに後ろから声が降ってきた。
何処へ行っていたか訊ねると、トイレだと言って、少し先の公衆便所を指差した。
意外と住んでいて住みやすいところなのかも知れないと考えてしまった。

「こんな夜に平気なのか?」

昼間よりも明るく感じるトンネルの中で、私達は向かい合って座った。
間には、セセラギさんが熾した焚き火がある。

「大丈夫です。少し散歩に出るって言ってきましたから」

今は、午後の8時を回っている。
普通の家であるならば、年頃の娘を寒空の下に出したりはしないのだろうけれど、私はそんな事を気にはしなかった。

「…君は、いくつだ」

「17です」

「……そうか」

少し間があって、セセラギさんが答えた。
何故か、驚いた表情をしたように思えた。

「いくつだと思ってました?」

あまり表情の変わらないセセラギさんが驚いたので、その理由を聞いてみたくなった。
理由の大体は見当が付いているが。

「最初は小学生だと思っていた」

セセラギさんは躊躇うことなく言った。
私は高校生にしながら、未だに悪くて小学生に見られる。
背が低いこともあるのだろうが、自分ではこれくらいでも普通じゃないかと思っている。
もう一つはなんと言っても顔の所為だろう。
あまり、というかまったく化粧というものが好きではなかった。
肌に合わないとかではなく、ただ単に面倒くさいだけである。
それでなくとも童顔な所為で、制服を着ていても間違われるくらいだ。

「思っていたが」

セセラギさんはじっと燃える炎を見つめたままだ。

「が、夢を語られた時、小学生ではないだろうと思っ
た。だが、高校生とは…」

自分の予想が外れたのがよっぽど悔しいのか、この間より、顔に影がかかった気がした。

「やっぱりそうですよね。よく間違われるんです」

そう言って、私は笑った。
もう、慣れてしまえばどうって事はない。
持ってきたコンビニの袋から、まだほのかに湯気の立つ肉まんを取り出す。

「肉まん、差し入れです。コンビニの前を通ったら、つい買いたくなっちゃって」

火を避けるように、腕を伸ばしてそれを差し出す。
おごりは嫌だと言っていたわりには簡単に、セセラギさんは素直に受け取った。
セセラギさんはそれを丁寧に袋から取り出して、底についている紙を剥がしにかかる。
それから、何か聞きたそうな、訴えるような目をして私を見ていた。
小動物のようで、何だか可愛らしかった。

「別にお金、請求したりしませんよ。今日は雪が降っていたから」

私も袋を探って、肉まんを取り出す。

「雪が降っても気分がいいのか?」

「何となくです。何となく、セセラギさんと一緒に見たいと思って」

「雪は、好きなんです」

そう言って、トンネルの外へと目をやる。
雪の降り続ける空は、雪の日特有の厚い雲に覆われている。




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