ほんとうは、ずっと好きだって、伝えたいのに、ずっと伝えられない私はなんて、彼への恋、に臆病者なんだろうね。
片恋、切符乗車券
「久しぶり、だね」
「っ、久しぶり!」
家が近所だったあたしと、桃色頭の彼は、昔よく一緒に遊んでた。もちろん近所ということは、小中学校も一緒。いわゆる幼なじみ、ってやつ。仲が良かったあたしたちは学校でも帰ってきてからも一緒に遊んで、お互いの家を行き来するのが日常だった。
そんなある日。中学生になってもあたしたちの関係は変わらなくて、ずっとそうだと思ってたんだけど、彼に彼女ができた。
「ごめん、彼女できちゃったから、お前とあんまり遊べないや」
「…な、なに謝ってるのよ!彼女を一番にするのがあたり前じゃん」
「彼女が出来てもお前と俺の関係は今まで通りだよ、だから変に気とか使わないでね?」
「何であたしがあんたに気を使うのよ。使うなら彼女さんにでしょ」
あはは、彼氏もいないのに生意気ー、早くお前も彼氏つくりなよ。俺と彼女みたいに、と嬉しそうに笑って言う彼にひどくチクチクと痛んだのは、心の奥深く。なんで、どうして、もしかして、
「幼なじみを好きになる、なんて漫画だけだと思ってた」
まさか、我が身に起こるとは。しかも彼女が出来て初めて気付くとは。近すぎて一緒にいるのがあたり前で今まで全然気付かなかった自分の中に芽生えていた想い。それに思わずがっくりと肩を落とし、失笑。
それからしばらくして、あたしにも彼氏、なるものができた。彼は、ついにお前にも春がきたみたいでよかったね、と喜んでくれた。その頃には、彼は違う彼女がいたけれど。
彼への秘かな想いをあたしはずっと否定しようと必死で、誰かを好きになって、付き合うのに、いつも心の奥深くでちらついて、心をぎゅう、と締め付けるのは…、彼。
「えー、なんで?わざわざ地元離れた大学いくの?俺寂しいじゃん」
「地元を離れたいって思うのも、普通じゃない?」
嘘、ほんとうは、地元じゃなくて彼の傍から離れたかっただけ。離れてこの想いを忘れたかった、消え去りたかった、拭い捨ててしまいたかった。
でも、なんで?どうして彼にだけ、真っ正直に言えないのかな、ぶつかれないのかな、逃げちゃうのかな。つまり、は怖い、から。
そんな想いを秘めて数年、同窓会の為に地元に久々に帰ってきたあたしは彼と再開する。相変わらず桃色頭を三つ編みにして、笑顔で、でも、ちょっとだけ格好よくなってて。
あー、あたしやっぱり好きみたい。神威、あんたが、誰よりもずーっとずーっと好きみたい。でも、言えない。
「元気なの?全然地元帰ってこないんだもん、生きてるのか心配になったよ」
「ちょっと、久々だっていうのに失礼だね!綺麗になった、とかないわけ?」
「はは、綺麗になったよー」
「うわ、棒読み」
「変わってなくて、俺は安心したよ」
「それもどうなの」
「ほんと、ケバケバの派手派手のギラギラになってたらどうしようかと思ったよ」
「擬音ばっかでわかりずらっ!」
「やっぱり、お前って安心するよ」
言って、頭を撫でて笑う彼、きゅん、と疼く胸。
ねえ、好きよ。
この言葉が言いたいのに。そう思うのはいつもなの。モヤモヤと積もるのに、
彼を好き、だと思うと、
あたしは彼にだけ弱腰に
なる、伝えることに臆病になる、逃げてしまうの。
(彼の前だと素直にもなれない、そんなあたしは片恋切符をいつまでも改札機に通すことが出来ないの。)
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