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□以外とすぐ傍にある幸福
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「おい、そこの地味でもなく可愛くもなく至って普通の非モテ系!」
廊下で目の前を歩く、1人の女子にでかい声で後ろから叫び、呼び止める。
『…何だよ、不良チャラチャラジャシン馬鹿死ね馬鹿系』
「てめ、今馬鹿って二回もいいやがったな!?つーかジャシン様を馬鹿にすんな、おい」
『あーもーうっさいなぁ!黙ってくれない』
「黙るかバカ、お前あれだから」
『あれって、なんだよ』
「あれだよ、今日お前の家に飯食いに行くからおばちゃんに伝えといてくれよ」
『えー来んなよ、めんどくせーうるせーから』
「お前言葉使い直せよ。おばちゃんはいつでも来ていいって言ってんだからな」
『ちっ、余計なこと言いやがって。…わかったわかった伝えとくよ、変態色魔』
「ハァァァ!?お前いちいちんだよ、コラァ!」
ワイシャツの下にはTシャツをきて前を全部開け、スカートの下にはジャージをはき、違う意味でだらしない制服の着こなしをした名無しさんの姿を後ろから眺める。名無しさんとは幼なじみで、俺の親は小さい頃から仕事が忙しくてほとんど家にいねぇ。だから家が近い名無しさんの家によく飯を食いに、中学生まではちょくちょく、高校生になってからはたまに飯を食いに行く。
名無しさんは小さい頃から言葉使いと振る舞いが男前だ。それは兄貴たちに囲まれて育ったからだろう。何でか、中3からはさらに乱暴になった。それは俺が女遊びや生活自体が乱れたものになってきたときからだ。
「ねぇ、飛段って意外に名無しさんちゃんと仲良いよねぇ〜」
「まーな、幼なじみだしよ、女って感じが全然ねーとこが気ィ使わなくていいしなァ!」
「ちょっとぉ!それ褒めてんの?」
キャハハと笑い、茶髪を巻いて派手な化粧をした俺の遊び相手の1人の女が言う。
「ねぇ、今日遊ぼうよぉ」
「遊びてぇのは山々なんだけどよ、俺今日は予定あっからダメだ。今度また遊ぼうぜ!ベッドあるとこでよぉ!」
「飛段ってば相変わらず何だからぁ」
「名無しさんなら、帰ったぞ、うん」
「おっ、デイダラちゃん!…っハアァァァ!?あいつ帰ったのかよ!俺と一緒に帰りゃーいいだろが!」
バタバタと慌ただしく帰っていく飛段。勝手に帰るわ、暴力的だわ!女らしさの欠片もねぇ!ぶつぶつ文句を言いながら名無しさんの家に向かう。
家に向かう途中、コンビニにから赤髪の無駄に色気のある男と名無しさんが笑いながらでてきた。突如、チクリとする胸と、そんな表情、しばらく俺にみせたことねぇじゃねーか。という苛つき。楽しそうに笑ってんじゃねーぞ、コラ。何だよ、この態度の違いはよ!てゆうか笑った顔、久々に見たけど可愛いじゃねぇかよ!?赤髪の男と別れ、俺の方に向かってくる。
『あ、飛段』
「………さっきの男、誰だよ!!」
『……はぁ?サソリのこと?』
「サソリだかザリガニだか知らねぇけど!まじイラつく」
『何でサソリと話してただけでイラつかれなきゃなんないんだよ』
「何でもいんだよ!テメーが俺に対する態度かえやがるからだろ!」
『あっそ。どっちがだよ、ばーかっ!!』
「!!あぶねっ…」
俺に素早く殴りかかってきた名無しさん。危うく顔面に一発もらいそうだったが避けた。そしてイラっときた俺はそのまま自分の家に帰った。
ーーーーーーーーーーー
『デイダラ、ちょっと』
「うん?どうした?」
何もなかったかのように、いつも通りの名無しさん。あの喧嘩から1週間たつが変わらず俺をシカトしやがる。ったくムカつくムカつく!あの赤髪の野郎も一緒に帰る姿をよく見る。くそ!名無しさん、テメーの所為で俺は1週間女と遊んでねーし、遊んでねーし、朝まで過ごしてねーしよォ!
「…あ?何で俺、こんなにあいつが気になるんだ?」
うーん、と頭を捻る。捻りに捻って、出てきた答。うわ、まじかよ…おいおい!
「名無しさんー、サソリの旦那が来てるぞ、うん!」
『わかった』
「ーっ、サソリだァァァ!?」
バーン!机を両手の平で思いきり叩き、叫ぶ。椅子が勢いで倒れる。一斉に飛段に視線が集まる。
「……何だよ飛段、うん」
『……何?うるさいなぁ』
「テメー見てるとイラっとくんだよ!」
『………あっそ』
俺に背を向けて教室から出ていく。何だよ、そんなに俺が嫌いかよ。
すでに校門に向かい、あの赤髪のサソリだかって男に手を振る名無しさん。無性に苛つく。そう思ったら身体が動き、3階の教室の窓から飛び下りた。悲鳴が聞こえてきた。俺は地面に見事に着地、怪我もなし。さすが俺。そしてサソリと話している名無しさんに大声で叫ぶ。
「ってめぇ、名無しさんコラァァァ!他の男とは笑って話してよォ!俺とえらい違いじゃねぇか!あ?」
何も言わずこっちを見ている名無しさんに向かい、さらに叫ぶ。俺、分かったわ。何でこんな苛ついてたか。そういう事かよ。
「名無しさんーっ!俺、お前が好きだ!だから俺と付き合えーっ!」
言うと、名無しさんは何も言わずに俺のところに歩いてきた。そして、
『サソリとデイダラに協力してもらった甲斐があったわ』
「………あ?」
『やっと気付いたか、ばーか!』
「あぁ!?」
『うちも飛段が好きだってことだよ』
「お前、まさか!サソリってやつは…」
『だから協力者だっつってんだろ』
「やられたァァァァァ!」
『うちの大切さが分かったかよ?飛段ちゃん?』
にやり、と笑う男らしいこいつは今日から俺の女。
以外とすぐ傍に
ある幸福
近すぎて気付かなかった。愛しいやつの存在に。
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