本編


□act9-2 夏合宿。〜嵐来る〜
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別荘へと続く道を歩く4人。
乃々胡の隣を赤月が歩き、その後ろを椿と碧以が歩く。

赤月と碧以には、まだ初恋話を聞いていないから、すぐにでも質問をしたい乃々胡だが、その前にどうしても気になる事があって、赤月のワイシャツの裾をクイクイ引く。

「うん?なんだ?」

「あのさ、かゆい先輩とか、わるい先輩とか、何?」

乃々胡の言葉に知らないのか?と首を傾げた赤月だったが、アッと声を上げるとポンと手を叩く。

「そっか。先輩たちはオレっちたちが1年の時に3年だったもんな。ノコは知らなくて当然か。」

そうだそうだ、と一人で納得した赤月は、ようやく乃々胡に説明を始めた。

「葉中 結衣(はなか ゆい)はアルの前の生徒会長で、口川 流依(くちがわ るい)はオレっちの前の守護隊リーダーだ。」

「え?生徒会長と守護隊リーダーは女の人だったの?」

「おぅ、そうだ。スッゴいんだぞ、2人とも。」

「そうなんだ、っていうか、はなかゆい……くちがわるい……」

その言葉を聞いた乃々胡は、頭に一度平仮名を思い浮かべてから漢字変換し


鼻痒い…口が悪い…


だからかゆい先輩とわるい先輩なんだな、と理解すると同時に、女性にそんなあだ名を付けるなんて赤月らしいと言えばらしいが、自分なら絶対嫌だと拒否するのに、と溜息を付いた。

「で、その先輩たちと葉中くんが何か関係あるの?」

「まず、姉と弟って関係だな。」

「え?………あ、葉中!そうか、かゆい先輩は葉中って苗字だ。」

「そういう事。んで、かゆい先輩の友達って言ったら、わるい先輩。姉貴の友達だから、とか言ってたから2人の話をしてるんだなぁ、と思ったんだよ。」

「うーん、まぁ確かに……でも……」

『姉貴の友達』と言っても、それが口川の事かは分からない。それより、葉中が姉の話で取り乱した事は確実で、女性が苦手である事と何か関係があるのだろうか、と乃々胡は考える。

「で、結局ノコたちはなんの話をしてたんだよ。」

しかし、赤月がそう質問をすると、乃々胡は考えるのを止めて、ポンと手を叩き立ち止まる。

「そう、初恋の話!」

「初恋?」

「うん。ちょっと参考までに聞いてるんだけど、赤ちゃんと碧ちゃんの初恋は?」

乃々胡に合わせて全員が立ち止まると、乃々胡は目を輝かせ、赤月と碧以と向かい合い交互に見る。2人は目をパチパチと瞬かせてから顎に手を当て首を傾げる。

「そうだな、オレっちは……エーカさんかな?」

先に口を開いたのは赤月だった。

「エーカさん?」

「知らないか?女優の恒原 冴佳(つねはら さえか)だよ。最近だと、『囁かれた裏切り』ってドラマに出てる。」

「……あの女優の恒原 冴佳?え〜、テレビの中の相手に初恋って……」

乃々胡は呆れて溜息を付いた。それが初恋になるのなら、なんでもアリという事になる。
小さい頃に観た海外映画の王子様に、目をキラキラと輝かせていた事が思い出され、それが自分の初恋だと言っても良いかもなんて思えてくる。

しかし、そんな乃々胡に赤月は真顔で近付き、ガシッと肩を掴んだ。

「ノコ、テレビの中に人は入ってないぞ?」

「………知ってます!」

まるで何も知らない子供に言い聞かせるような態度に、乃々胡はカチンときて赤月の頬を抓る。

「いっ!」

「テレビの仕組みくらい知ってるの!私が言いたいのは、実際に話した事のない相手が初恋相手だなんて、そんなのアリでいいのかって事よ!」


痛そうに顔を歪める赤月に構わず、乃々胡はギュウギュウ頬を抓ったり、伸ばしたりしながら声を荒げる。
碧以はオロオロとしているだけで、見兼ねた椿が乃々胡の肩に手を置き耳元で囁く。

「落ち着いて下さい、お嬢様。先ずは彼にお父上の職業を伺ってみては如何でしょう?」

耳を擽る椿の息に、ビクッと過剰に反応した乃々胡。
赤月から手を離すと素早い動きで椿から離れた。

「ちょ、ちょ、ちょっと椿!?どういう…」

意識して真っ赤になる顔を手で隠し椿に視線を向けると、椿は『質問してみて下さい』と目で合図を送ってくる。
乃々胡は何の関係があるのかと思ったが、頷くと赤月に視線を向けた。

「ねぇ、赤ちゃんのお父さんの職業は?」

抓られて少し赤くなった頬を摩っている赤月は、今日は質問ばっかりだな、と呟いてから

「オヤジは俳優だよ。久井 比路(ひさい ひろ)って、聞いた事ないか?」

ニッと笑って答えた。

 
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