本編


□act8 秘密。
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夏休みまであと2日。
今日は授業もなく簡単なオリエンテーションだけで、学園に滞在する時間は短いというのに、乃々胡はまたしても厄介事に巻き込まれていた。

「三院さん、お願い!」

「ヒントだけでいいから教えて、ねっ?」

教室を出た乃々胡の周りを取り囲み、絶えず質問を投げ掛けてくるのは、複数の女子生徒。

「え?あ、あの……」

真剣な眼差しの彼女たちのリボンの色は様々で、困惑する乃々胡は助けを求めて辺りを見回す。

「はいはい、ストップ!」

「行くぞ、三院さん。」

「あ、うん!」

そこへタイミング良くやってきたのは、守護隊の阿久 冬太と鹿毛 忍。2人は女子生徒たちと乃々胡との距離をさりげなく離し、そのまま靴箱へ向かい歩き出す。

「あっ……残念…」

「もう時間がないのに〜…」

守護隊登場という事もあり、女子生徒たちは諦め追いかけては来ない。
乃々胡は盛大に息を吐いた。

「ありがとう、助かったよ〜。」

2人にそう感謝の言葉を告げると

「いや、俺たちが遅かったのが悪いんだ、礼はいい。」

「そうだよ、それに、これが俺たちの仕事なんだし、気にしないでいいからね?」

忍は首を左右に振って薄く笑みを浮かべ、冬太は忍の言葉に同意しつつ頷いて、ニッコリと笑ってみせた。

「それにしても、三院さんは特に大変だよなぁ。」

「え?どういう事?」

「執事養成科生徒も久弥も質問責めで大変らしいけど、周りを囲まれた、って話は聞かないし。女の子だから特に大変そうだな、って。」

「なるほど。確かに男の子に聞くよりは、私に聞く方が聞きやすいよね。でも、みんなも大変なんだ……」

「まぁ、俺の担当のゼンみたいに、まったく寄り付かれない奴もいるけどね。」

廊下を歩く3人。乃々胡を真ん中に挟み右に冬太、左に忍が並ぶ。
乃々胡と冬太が会話を交わしている間も、忍は辺りの様子を注意深く見回していた。

合宿の詳細が発表されてからというもの、乃々胡たちは朝も昼も放課後も、合宿場所を知りたいと色めき立つ女子生徒たちの対応に追われていた。

「あー、私もゼンには聞こうと思わないなぁ。」

「だよな。何しろ、質問責めに質問責めで返されて、最後には説教が始まるからな…」

「うわっ、そのお説教長そう!」

「2時間はかかるな、最低でも。」

いつもの悪意のある妨害ではなく、執事養成科生徒を想っての熱意。それでも、合宿場所は極秘事項である為、関係者は何も話す事は出来ない。
だからこそ、女子生徒たちの気持ちはヒートアップしてしまい、多少混乱状態となってきている。そこで、守護隊は執事養成科生徒とマスターの警護を強化する事になり、今日は担当執事のいない忍と、手が空いている冬太が乃々胡の警護にあたっていた。


誰かを想う気持ちを知る冬太にとっても、執事養成科生徒の魅力を知る乃々胡にとっても、彼女たちの気持ちは分からないものではない。
とは言え、冬太には守護隊としての、乃々胡にはマスターとしての責任がある。

2人は、善人に詰め寄られ涙目の女子生徒の姿を浮かべ、少しだけ可哀相だなと同情しつつも仕方ないかと小さく溜息を付いた。

 
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