本編


□act5 近づく試験。
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衣替え。

梅雨に入り、季節は夏の入口に立っていた。
君逢学園では一学期の試験が近づいた合図になる。

君逢には特殊学科がある為、試験設定が通常の学校とは異なり、中間試験は行わず期末だけの実施となっていた。
しかし年3回だけの比重の為に、生徒にはかなりの負荷がかかる。もちろん赤点を出してしまった者や、当日試験を行えなかった者の追試や補習等の救済措置はあるが、夏休みや冬休み等を削る事になるから、生徒達は試験が近づくと休み時間を惜しんでまでの、完全試験勉強体制になっていた。

この時期だけは普通科と執事養成科の対立も、一時的に休戦状態になる。
絡んで来るのは大概普通科の方だから、普通科サイドがおとなしくなると表現した方が正しいかもしれないが、お互い余裕がなくなるのが本当の所だった。



「ん〜平和だなぁ!」

どんな時でも朝の見回りを欠かさない守護隊リーダーの赤月が、軽く腕を伸ばしながらエントランスホール付近を歩いている時だった。

「だから、大丈夫って言ってるでしょ!」

入口の扉の向こうで急に大きな声で怒鳴るのが聞こえたので、赤月は急いで様子を見に行った。

「どうかしたか?」

声を掛けると、柔らかなウェーブのかかった長い髪をかきあげ、携帯電話を持った乃々胡が振り返った。

「あ、ごめっ…」

通話中だと気付いて手を合わせて謝る赤月に、乃々胡はいい所に来たとばかりに赤月の腕を引っ張った。

「はい、守護隊リーダーからも大丈夫って言ってよ〜!!」

携帯を渡された赤月は、状況が飲み込めないまま携帯に出た。

「あの…もしもし?何か分かんないけど、大丈夫らしいんで…。」

その場の勢いでそれだけ言うと、乃々胡に携帯を奪い返されていた。

「そ〜ゆ〜訳で、じゃね!」

乃々胡は携帯を切ると、その勢いで電源まで落として、盛大にため息をついた。

「ごめんね?ホントにうちの執事はうるさくて…大丈夫って言ってるのに、しまいには携帯にまで掛けてきて…」

「ははは、なんだか訳は分かんないけど、大変そ〜だな〜?」

「笑い事じゃないんだよ?」

「うんうん、それにしても人騒がせなヤツだな〜ノコって。」

乃々胡は駄々っ子があやされる様に、赤月に頭を撫でられていた。
あとちょっとで飴が出され、これで機嫌直してとかセリフが飛び出しそうな感じだ。乃々胡はむくれた。
 
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