本編
□act4 最恐最悪破壊王。
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暖かな日差しが心地好い放課後、中庭にある茶室では、お茶を楽しむ久弥と小吉がいる。
「小吉先輩、どうぞ。お口に合えば良いですが…」
「ん、ありがとう。殿の茶は飲みやすいから、茶道を知らんワシでも楽しめる。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
久弥の最近の楽しみは、空き時間を利用し執事養成科生徒にお茶を振る舞う事。と言っても本格的な作法を教える訳ではなく、相手に合わせ楽しめる場を作り、日頃の疲れや悩みを解消してもらう事を目的としている。
今まで何人かの生徒と時間を共にしている久弥だが、小吉と過ごす時間は特に気に入っていた。
執事モードの小吉は礼儀正しく紳士的だが、普段は気さくで気取らない振る舞いをする為、先輩だからといって気を遣う事なく自然に振る舞える。更に正座を苦に思わないから嫌な顔もしないし
「だが、毎回ワシばかり悪いな。」
「いいんです、授業とはいえいつももてなしてもらってますし、何よりこれは拙者が好きでやっている事ですから。」
「そうか?なら良いんだが……」
お互い独特の一人称が茶室に良く似合っている。
総じて無理なく楽しく過ごせる相手、として誘う事が多かった。
それに今回は特別な理由がある。
「でも、いつも通りで安心しました。」
「ん?安心?」
安堵の息と一緒に吐き出された久弥の言葉に、小吉は短い言葉と視線で問い掛ける。
「最近、周りが騒がしいから、色々と悩んだり困ったりして疲れているかと思ったんです。」
「あぁ、なるほどな。」
乃々胡の周りで起きた事件について、久弥は関わっていなかったが話は聞いていた。
執事養成科生徒のまとめ役である小吉は、裏で色々と動き回っていたのではないか、そう考えた久弥はその疲れを癒してもらおうと思っていた。
その思いに気付いた小吉は、ハハッと笑うと数回頷き膝をパンッと叩く。
「殿も大変だろうに、気を遣ってくれてありがとな。ま、2年間この学園で過ごしたんだ、面倒事は沢山あったし今更何があっても…ってヤツだ!」
「あ、確かにそうですよね。」
「それに、今回ワシは深く関わってないんだ。」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。まったく、相談もせんで水臭い奴らだ。定例会で嫌み言われるワシの身にもなれってなぁ。」
半ば笑い話のように話す小吉の言葉を聞きながら、フムと唸る久弥は顎に手を添え暫く考えた後、ポツリと言葉を零す。
「最後の砦、小吉先輩がいるから無茶が出来る…ですね。」
「殿?」
ハッキリと聞き取れなかった小吉が、首を傾げながら久弥に聞き直すと、久弥はニコニコ笑いながら首を振る。
「独り言です、気にしないで下さい。それより、いつになればゼン先輩にお茶の相手をしてもらえるんですか?」
「あー…」
先程の話が気になるものの、いきなり話題を変えられると動揺を隠せず、小吉は笑顔を引き攣らせた。
「それだけではなく、おもてなしの授業でも、まだゼン先輩の紅茶を飲んでいません。乃々殿に聞いても楽しそうに笑うだけで、教えてくれませんし……」
「まぁ、もう少し………」
「ゼン先輩曰く、授業は家永先生に、お茶は小吉先輩にハッキリとした許可を貰う必要がある、と言ってましたよ。授業はともかく、何故趣味のお茶に関してまで許可が必要なんですか?」
「……」
「小吉先輩はゼン先輩のお茶に付き合っている、とも聞きました。拙者には飲ませる訳にはいかない、何かがあるんですか?」
問い詰められていくうちに、小吉はある事に気付く。
久弥の表情には困惑というより、面白いという色が浮かんでいる。理由を追求したいというより、小吉の反応を楽しんでいる。
「久弥……楽しんでるな?」
小吉が溜息混じりで問い掛けると、久弥はアハハッと笑いながら照れたように頭を掻く。
「バレましたか、さすがは小吉先輩。」
「………ったく、今回のマスターはいろんな意味で頼もしいな。」
悪びれる様子もなくハッキリそう告げる久弥。小吉はヤレヤレと首を振ってから、お茶を一口飲んで小さく笑った。