本編
□act3 無敵のお嬢様。
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女の子という生き物は、どうしてこうも元気なのだろう。
自分も同じ女の子だというのに、乃々胡は目の前の風景を眺めて溜息を付いた。
場所は学園の車寄せ。高級車で次々と登校する生徒たちとは別に、沢山の女子生徒たちが落ち着かない様子で集まっている。
集団に中に見付けたクラスメートに、何故集まっているのかと聞けば、1人の生徒の名前が上がる。それが自分の待ち人と同じだった瞬間、乃々胡は強烈な目眩を覚えた。
「毎朝待ってるとか?そう、なんだよね…。」
朝は弱くギリギリの登校が多い乃々胡にとって、それは珍しい光景だったが、通り過ぎて行く生徒たちの様子に驚きや戸惑いが見受けられないところを見ると、それがいつもの事なのだと容易に推理出来た。
「……ハァ。」
乃々胡は2度目の溜息を付く。
せっかく早起きをしたのに、当初の目的が果たせない事が確定した。もうここにいる必要はなくなったのだから立ち去ろうとも考えたが、女子生徒たちが微かにざわめき始めると好奇心が掻き立てられ、せっかくだからもう暫く様子を見る事にした。
落ち着きなく体を揺らす女子生徒の集団の一番後ろから、爪先立ちでその視線の先を眺めると、3台の車が止まるのが見えた。それぞれの車から優雅に降り立ったのは、3人の女子生徒。彼女たちは送りの車が走り去った後も、その場に並び動かない。
「いらっしゃるわ…」
「あぁ、ドキドキしてきた!」
彼女たちを見た女子生徒たちは一層落ち着きなくざわめき始める。と、次の瞬間1台の車が止まりゆっくりとドアが開いた。深々と頭を下げる3人の女子生徒に迎えられ、車から降り立ったのは櫻上 或都。
「キャーッ、或都様!」
「櫻上先輩、おはようございますーっ!」
学園で彼の存在を知らないものはいない。成績優秀、容姿端麗、その人気は絶大。生徒会長として学園の頂点に立つ彼に、付いたあだ名は[王子様]、集まった女子生徒たちの目的は憧れの王子様に逢う為。
乃々胡もまた彼に逢う為ここにいるのだが、その目的は少し違った。
「さすがだわ、王子様…」
誰が付けたかは知らないが、まさにその通りだと感心しながら乃々胡はただその勢いに圧倒されている。早く立ち去れば良かったと気付いた時には、誰もいなかった後ろにも人が押し寄せていた。
ゲッ!このままだと潰される!?
取り巻きの乙部、久澄、小巻を引き連れ悠々と歩く或都を横目に、ギュウギュウに押し合うそこから脱出を試みる。
「すいません、どいて下さい!」
大きな声でそう叫びながら勢いを付け強引に体を動かすと、意外にも呆気なく体は密集地帯から抜け出し、ポンと宙に放り出された。
「うわっ!」
地面に倒れる事を覚悟して目を閉じた乃々胡だったが、その体は柔らかいものにぶつかり支えられる。
「おっと……大丈夫?」
「ごめんなさい、大丈夫です…」
ホッとして目を開け、相手に視線を向ける。乃々胡の視界に映ったのは、優しく微笑む3年の男子生徒だった。
「そう、それなら良かった……あれ?」
乃々胡と目が合った途端、男子生徒は不思議そうに首を傾げた。どこかで見たことあるな、そんな様子で乃々胡と集団を交互に見る。
「急ぎますので、失礼します!」
恥ずかしいやら情けないやらで、乃々胡は相手から離れると、ペコッと頭を下げ逃げるようにエントランスに向かって一気に走った。
「ハァ、ハァ……疲れた…」
騒がしさが耳から遠ざかりエントランスが視界に入ると、乃々胡は走るのを止めゆっくり呼吸を整えながら歩く。
「ねぇ、三院 乃々胡ちゃん……マスター?」
「えっ!?」
息が整い始めたのもつかの間、掛けられた言葉に過剰に反応してしまい乃々胡の体がビクリと跳ねた。