本編
□act2 普通科で行こう。
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もう少し
あと少しだけ
「眩し…」
窓から差し込む光に目を細めると、巨大な影が覆った。
「おはようございます。いい加減になさって下さい、お嬢様?」
乃々胡はくしゃくしゃの髪を軽く手で押さえ、目の前の男を睨みつけた。
「年頃の娘の部屋に上がり込むとはいい度胸ね?虎嗣…」
「メイド達に泣きつかれるまで、目覚めないお嬢様に問題があります。これ以上面倒をかけるようならば自分にも考えがございますが?」
虎嗣は袖を軽く引き上げ、実力行使をアピールしてみせた。乃々胡はそれを丁重に断ると、素早くベッドから飛びだした。
「では、お嬢様」
まだ胃の中を泳いでいる朝食に不快感を覚えながら、乃々胡は学園の車寄せに降り立った。
「う、気持ち悪…」
「それも自業自得にございます。これからは時間にゆとりを持ち、落ち着きのある立派な淑女として…」
「あ〜分かりました分かりました!私が悪い子でした、もうしません!」
乃々胡は虎嗣の言葉を遮るように、おざなりに反省の言葉を述べる。もうすでに朝食時から送迎の車に乗り、降りるまで延々と説教されてきたのだ、これ以上聞くのは御免だった。
「じゃ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
乃々胡は深々と頭を下げる虎嗣にひらひらと手を振り、校舎に向かって歩き出した。
もうすぐ衣替えの季節。
正門から校舎へ続く通りは少し遅めの時間の為か人はまばらだった。
一番最後まで咲いていた八重桜もすっかり葉に変わっていて、深呼吸すると微かに桜の葉の匂いがした。
乃々胡はつい桜餅を連想していた。
「う…美味しそう…」
思わずうっとりと妄想に入りそうになったが、鋭い視線と気配に我に返り足を止めた。
…今日はやっぱり厄日?
乃々胡は鞄を胸の前に抱きしめて、視線の来る方に振り返った。
うわあ…
すぐにマズいと思ったが、逃げ出す間もなくズラリと並んだ5人程の女子生徒に囲まれた。スカーフの色からすると、2年と3年生の先輩達のようだ。
「お、おはようございます?」
乃々胡は顔を引きつらせながらぐるりと全員を見て、挨拶で疑問を投げかけた。