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□此にて御仕舞い
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「勝負あり、です。政宗様」
刀を握る政宗を牽制したのは腹心の小十郎だった。
「ああ」
低く返事をすると、政宗は血の付いた刀を振るい鞘に収める。
最後の一太刀で致命傷を負った真田幸村は、部下である佐助の腕の中で既に冷たくなっていた。
「竜の旦那と仕合えて、本望だったと思う」
佐助は涙を流す事も取り乱す事も無く、ただただ無表情で幸村の顔を見つめている。
小十郎も主の好敵手の最期をしかと見届けていた。
「くだらねぇ」
そんな中、政宗が突然吐き捨てた言葉に小十郎と佐助は驚倒の視線を向けた。
「くだらねぇ…くだらねんだよ」
二人に背を向け、ふらりふらりと歩き出した政宗。
かと思えばぴたりと立ち止まり、今度はクツクツと笑い出した。
政宗の挙動を解せず、小十郎は黙ってその背中を目で追うことしか出来なかった。
「幸村め、簡単にやられやがって…もっと俺を楽しませてくれるんじゃ無かったのかよ…もっと……もっと…」
喉の奥の渇いた笑いは、小さく震えていた。
「なぁ、猿飛」
「……」
「丁重に…葬ってやってくれ………頼む」
「…わかってる」
政宗は一度振り返る素振りを見せたものの、決して振り向く事は無く、その場を後にした。
続き小十郎も、幸村の亡骸と佐助に深く一礼し、政宗の後に続いた。
「なぁ小十郎、俺は勝ったのか?」
「ええ、貴方様の勝ちで御座います」
「そうか…これで終い、か」
『俺はこれで、良かったのか?』
その問いに、小十郎が答える事は無かった。
End.