短い歌

□恋歌
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寂しげな笑顔が印象的だった。

「これから先、会うことはもうない」

必ずまた会える

「その時の私は今の私じゃない」

それでも探す

「きっと解らない」

必ず解る

「私はきっと貴方を覚えていない」

それでも

「貴方もきっと私を覚えていない」

覚えている


*****


(………またあの夢)

毎年、桜の季節になると同じ夢を見る。

でも何故だろう。
いつもよりはっきり覚えている。

月夜の中、桜の花が輝いていた。
その背景に佇む1人の少女。

初めて見る顔。
でも知っている。
きっと何処かで会っている。
そんな気がした。


「颯馬くん、どうしたの?」

あんずに声をかけられて颯馬ははっとした。
採寸の為、上げていた腕がいつの間にか下がっていた。

「む、すまぬ」

颯馬は腕を上げ、背筋を伸ばす。
あんずは颯馬の背中、肩、腕に巻き尺をあてる。
測ったサイズをサラサラとノートに書いていく。

最初はあんずとどう接して良いかわからなかった。
でも今は普通に話ができる。
作業しているのを落ち着いて見ていられる。

「今日は何だか上の空だね」

声が心地好く感じる。

「忍ぶれど
色に出でにけり わが恋は
物や思ふと 人の問ふまで」
(「小倉百人一首」平金盛)

「え?」

あんずは手を止めて颯馬を見上げた。

「颯馬くんは今、恋をしているの?」

『隠していた想いが顔に出ていた。「恋をしているのか?」と聞かれるくらいに』

颯馬の口から出た歌、何故その歌なのか颯馬自身も解らなかった。

だから、夢のことをあんずに話した。
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