にわか雨

□6.環境
2ページ/8ページ


春休み。

その日、水季は着物を着て、翠の家を訪れた。

『どうだ?似合うか?』
『う、うん』

口調や仕草はいつもと変わらないのに、ずっと大人びて見えた。

『お祖母ちゃんの仕事を手伝うことになったのだ』
『そうなんだ』

水季の両親は共働きだった。
お互いの家を行き来する時は母親が付き添ってきたが、家で水季の世話をしていたのは、ほぼ祖母だった。

水季の祖母はいつも着物を綺麗に着こなしていた。
まだ幼さはあるが、水季の後ろ姿は祖母に似ていた。

水季は翠を向かいに座った。

『翠、これからも、そばにいておくれ』

翠はキョトンとした。

『どうしたの?水季』

不思議だった。
翠にとっては、水季と一緒にいるのは当たり前だった。

『約束しておくれ』

今更、約束することでもないのに……。

『わかった』

翠は頷くと水季はフワリと微笑んだ。


その笑みが綺麗だと、初めて思った。



朝、翠は目覚ましが鳴る前に目が覚めた。

「…っ………夢か」

ゆっくり起き上がり、夢の内容を思い出し、眉をひそめた。


『そばにいて』


水季との約束。

翠は膝を抱え、目をギュッと閉じた。

(……約束したのに)

離れたのは翠の方だった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ