にわか雨

□3.甘味
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ハロウィン前夜。

水季は自宅で英智と電話で話していた。

「天祥院殿、もう一度言ってくれぬか?」
『明日、水季の所に行きたいって人が…』
「…断りたい」

思わず本音が出た。

『珍しいね、君がそんなことを言うなんて』
「明日はハロウィンだろ?」
『そうだね』
「面倒な手続きをせずにアイドル科に入れる日ではないか」

電話の向こうで英智は笑う。

『楽しみにしてたんだ』
「そうだ!」

水季は正直に言う。

「して、相手は誰だ?何処かの令嬢か?」
『水季』

突然、英智の声が真剣になった。

「なんだ?」
『断ることもできるんだよ』
「それを断る」

水季は即答した。

「天祥院殿を頼るのだ。余程のことなのだろう」

水季は冷蔵庫を開ける。
中を見渡して閉める。

「役目は果たすさ」
『……役目か』

どこか重く感じた英智の声を消すように水季はそっと息を吐いた。

「では天祥院殿、明日は仮装したあんずと智の写真を頼むぞ」

明るい声でそう言うと水季は電話を切った。

再び冷蔵庫を開け、ため息をつく。

「…………甘味を切らしてしまった」

甘味が欲しい。
しかし、出歩くには遅い時間。
水季は葛藤した結果、靴をはき、近所のコンビニに向かった。
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