にわか雨
□PROLOGUE
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数十分後。
「入るぞ」
水季は英智がいる客間の襖を開けた。
「傷はたいしたことはない。安心しろ」
「そう。ありがとう」
英智は本当に安心したような顔をした。
そんな英智を見て水季はクスクス笑う。
「何だい?」
「噂通りに愛らしい、あのような子を連れてくるとはな」
お茶のおかわりを出すと英智の向かいに座る。
「随分と気に入っておるようじゃのう」
「智は妹みたいな存在だよ」
水季は目を細める。
「なおさら『籠の鳥』にしそうなものじゃが」
「……一度『箱庭』に閉じ込めたよ」
「ほう」
お茶を一口飲んだ。
「何故、『箱庭』から出そうと?」
「色々あってね」
水季は頷いた。
ここは旅館として機能はしていないが、昔から訳有りの客がくる。
だから深くは聞かない。
「智とあんずは仲は良いか?」
「うん、そこは問題ない」
「ならば良い」
水季はまた頷く。
「お主も入ってゆくか?」
「いや、智が上がったらすぐ連れて帰るよ」
「そうか」