にわか雨

□PROLOGUE
1ページ/3ページ


立派な門を潜ると1人の女性が立っていた。

「ようこそ、天祥院殿」
「こんにちは、水季」

水季は英智に挨拶すると、その隣にいる、男子制服を着た少女に微笑んだ。

「そなたが智か」
「は、はじめまして」

智がお辞儀をすると水季は笑みを深めた。

丁寧に結わいた、銀色の髪。
薄水色の瞳、同色の留袖の着物。
透けるような白い肌。
細い手が智の小さな手をとる。

「では智は此方へ」

水季が智を連れて来た場所は風呂場だった。
智はきょとんとする。

「どうした?早く脱がぬか」
「え」
「聞いておらぬのか?ここは湯治専用の元旅館だ」

スルッと智のネクタイを外す。

「あ、あの…」
「どれ、吸血鬼に噛まれたという傷を見せてみよ」

水季はシャツのボタンを外し、肩までおろした。

「!」

智は驚いて動けなくなった。

「ふむ、薄いが痕が残ってしまったか」

智から離れた。

「暫く湯に浸かっておれ」

水季は脱衣室から出た。



自室。

水季は押入れの奥から一振の短刀を出した。

鞘も柄も木製。
鍔がなく、ぴたりと合わさっている。
木刀に見えるが、本物の刀。

それを持って脱衣室に戻る。
智の姿はなかった。
制服が畳まれて置かれている。
浴室から水音が聞こえる。
それを確認すると水季は天井を見る。

「やれやれ」

水季は鞘から刀身を抜き、天井に、『黒い影』に向けた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ