献上小説置き場

□試作品の恐怖
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一方、何よりややこしい事が起きていた。
なんと、中身は山本だが見た目獄寺な彼がスクアーロに抱きついた瞬間を、事もあろうにベルが見てしまったのだ。
しかも窓の向こうからだから会話までは聞こえない。
 
彼が見たのは、自分の恋人が同僚に泣きながら抱きついている姿。
そして最初は抵抗していたが、そのうち優しく抱きしめ返すスクアーロ。
最後は2人仲良く肩を並べて行ってしまった。
 
 
「………………」
 
“浮気”
その言葉が頭に浮かんだ。
これはもう問いただすしかない。
 
ベルは怒りを抑える為にいつも以上に笑みを作り、足早に彼らの後を追うのだった。
 
 
 
 
 
 
 
そしてそこへ都合良く現れたのが、山本の姿をした獄寺である。
彼はやる気満々だった。
何せ、これで成功すればツナの役に立てるかもしれないからだ。
全てはボンゴレの為、尊敬する10代目の為である。
 
目の前にベルを見つけ、チャンスとばかりに話しかけた。
 
「よっ」
 
するとベルは急いでいたらしいが、足を止めてくれた。
だが、かなり機嫌が悪いらしい。
顔は笑っているが、見ればわかる。
 
「ベル、何怒ってんだ?」
 
あくまで山本のように、気軽に明るく喋る。
だが、問題はそこではなかった。
 
「何でそんな事……」
 
ベルはいぶかしげに山本の姿をした獄寺を見る。
自分は感情がよめないとよく言われるのだ。
割とよく一緒にいるマーモンからも何も言われなかったというのに…。
 
 
だがそこで、自分が何に怒っていたかを思い出す。
 
「そうそう、山本武、おまえ最近あの鮫と上手くいってんの?」
 
「?どういう事…なの、な……」
 
内心ものすごく恥ずかしい。
アイツよくこの喋り方出来るな…。
 
「さっきスクアーロ見たんだけどさ…」
 
「へ、へぇ〜…」
 
ギク、と獄寺は強張る。
あの野球バカに自分の真似が勤まるとは思えない。
まさか……
 
「アイツら、抱き合ってた」
 
やっぱり―――――っ!!!!
というか俺の身体でなんて事を!!
想像するだけで気分が悪くなる獄寺。
そんな反応の外見山本に、ベルは首を傾げる。
 
「おまえ、怒んねーの?」
 
「え……えと…いや、もちろん怒ってる…のな!!」
 
俺の身体であんな奴とイチャついた事に。
 
「ふーん…」
 
いつもと違う山本の様子に、ベルが疑い始めている。
獄寺はそろそろマズイと思い冷や汗を流した。
 
「お、俺そろそろ行く…のな」
 
「ちょっと待って」
 
「え”?」
 
「どうせなら2人でアイツら問い詰めようぜ」
 
「そ…れは……」
 
獄寺は口ごもる。
そんな事したら中身が入れ替わった事がバレてしまうではないか。
それだけは避けたい。
 
彼の中では、絶対にバレるもんかという変な意地があった。
 
 
「あの2人はあの2人の問題だから……放っておいていいと思う、のな」
 
「ふーん……」
 
おかしい。
いくら天然で鈍い山本武でも、恋人が他の誰かと抱き合っていたと聞けば気にならないはずはないのに。
 
ベルはしばらく考え込むと、突然窓の向こうを見て言った。
 
「あ、沢田綱吉だ」
 
「なっ、10代目?!」
 
慌てて振り返るが、窓の向こうには誰もいない。
そこで獄寺はハッとした。
視線を戻せば、ベルがじとーっとこちらを見ていた。
 
「……隼人…だよね」
 
「な、何言って…」
 
「アイツの事“10代目”なんて呼ぶのもあんなに過敏に反応するのも、隼人だけだよね」
 
「………………」
 
ベルの目は疑いどころか確信のある目だった。
獄寺は諦めたようにため息をつく。
そして正体を明かした。
 
「……バレちまったか…」
 
「やっぱり。何、なんかの遊び?そんな事出来んだー」
 
「リボーンさんの案だ」
 
「あぁ、アイツね……」
 
それから獄寺は簡単に事の経緯を説明した。
 
ベルは改めて山本…に入った獄寺を見る。
今思えば、もはや彼にしか見えない。
まず表情が違う。
どうしてもっと早く疑問に思わなかったのだろう。
まぁ、先程のスクアーロの事で動揺していたのもあるが。
 
 
「って事は、隼人の身体には山本武が入ってんだよね?」
 
「あぁ。どうせすぐにバレたんだろ」
 
「だろうね。……にしても、入れ替わり弾かぁ…いいなぁ」
 
「そうか?不便この上ないぞ」
 
「いや、だって隼人と入れ替わったら隼人の身体を好き放題…メイド着せたりセーラー着せたり……あ〜んなコトやこんなコトも……」
 
バキッとそこでベルの頬に見事な右ストレートが決まる。
そしてお互い驚く。
ベルはいつも以上の痛さに、獄寺はいつも以上のパワーに。
そういえば中身が自分とはいえ、身体は山本、野球で鍛えられた腕力はだてじゃない。
手加減はしたがそれでもかなり強かった。
 
「いたた……ちょっと隼人、酷くない?!」
 
「うるせー」
 
もしかしたら今なら、いつもとは逆に彼を押し倒すくらいの力はあるかもしれない。
この身体でそれをやろうとは思わないが。
 
そしてもう1ついい事が。
獄寺は今、ベルを見下ろしていた。
山本はベルより7センチ程背が高いのだ。
これは普段では味わえない感覚である。
ちょっと気分がいい。
 
だがベルは不満そうに長い前髪の奥から睨む。
 
「なんか…つまんない。隼人はやっぱり、こう上から抱きしめられる方が…」
 
「勝手に言ってろ」
 
もはや付き合っていられないと歩き出す獄寺。
ツナの役に立てなかった事に軽く落ち込んでいた。
 
 
「ちょっと隼人〜」
 
「ついてくんな。それから間違っても抱きついてくんなよ」
 
ベルはしばしきょとんとするが、それからニヤ〜っと満面の笑みで笑う。
 
「隼人ったら素直じゃないな〜。大〜丈夫、一応身体は山本武だからね、今は我慢しとくよ。しししっ、隼人って意外と嫉妬深いんだぁ」
 
「なっ……違っ!!ただこれは…そう、山本に後でいろいろ言われたくないからで…」
 
「照れなくていいよ〜」
 
「照れてねぇ!!」
 
ベルにも、脳内ではいつもの姿の恋人が精一杯つっばねて赤くなる顔が浮かんでいるのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「で?それが何かな?リボーン」
 
事の一部始終を聞いたツナは、家庭教師にあくまで笑顔で問いかける。
 
「試作品でも1日もつんだ。おまえには威厳やら何やらがいろいろ足りないからな、ザンザスと入れ替わって…」
 
「絶対嫌!!」
 
間髪入れずにツナはそう叫ぶ。
リボーンは「やっぱりか…」とため息をついた。
 
「だってザンザスが俺の身体に……恐ろしい!!どんな事をされるか…ナニされるかわかったもんじゃないよ!!」
 
やる、彼なら確実に。
ザンザスの身体に入る事には少し興味があるが、やはり我が身第一、そこまでの危険は冒せない。
 
 
リボーンは不満そうな顔をすると立ち上がる。
 
「しょうがない…こうなったら実力行使しかねーか…」
 
ブツブツとそう言いながら去って行った。
 
「聞こえてるよっ!!」というツナのツッコミは風に流されたのだった。
 
 
 
彼が入れ替わり弾に当たったかどうかは……まぁ、あの最強と謳われたアルコバレーノ相手では、十中八九結果は見えているだろう。
 
 
数日後、ヴァリアー邸で、傍若無人なツナと控えめなザンザスを何人かが目撃したそうな。
 
 
 
 
 
 
 
 
→後書き
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