献上小説置き場

□試作品の恐怖
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「はあ"あ"ぁあぁぁぁ………」
 
スクアーロは長いため息をつく。
このところ仕事ばかりで恋人と会っていない。
最後に会ったのは3日前だ。
まだそんなにたっていないじゃないかと思うかもしれないが、彼にとってはかなり長い時間なのである。
もちろん、恋人とはリング戦で戦った同じ雨の属性、山本武の事だ。
 
 
すると、前から獄寺隼人が歩いてきた。
こんな所に1人とは珍しい。
いつもはあの沢田綱吉に忠犬のようにくっついているかベルに追い回されているかのどちらかなのに。
 
「よお"ぉ、テメェ1人かぁ?珍しいなぁ」
 
「あ……あ、あぁ…」
 
何やら様子がおかしい。
いつもなら「うるせぇ」と睨むか無視するかどちらかである。
 
おせっかいなスクアーロはもう一度声をかけた。
 
「どうしたぁ、らしくねーなぁ」
 
すると獄寺はフルフルと震え始め……突然抱きついてきた。
 
「なっ???!!!」
 
もちろん、抱きつかれたスクアーロはビックリである。
もはや何が何だかわからない。
すぐに引き剥がして獄寺の顔を覗き込んだ。
その顔は、今にも泣きそうだった。
 
「う"お"お"ぉぉい、何の真似だぁ?!」
 
「スク…アーロ……」
 
上目使いで名を呼ばれる。
そこでスクアーロはピーンときた。
 
「テメェまさか………」
 
「スクアーロぉぉ〜〜っ」
 
またまた獄寺が抱きついてきた。
だが、今度はスクアーロも引き剥がしたりはしない。
 
「テメェ、武かぁ?」
 
優しくそう問いかけると、大きく頷かれた。
…やっぱり。
あの仕草でわかった。
例え外見が違おうと、愛する者をわからない訳がない。
 
「……アルコバレーノの仕業…ってトコかぁ」
 
するとまた獄寺…山本が頷いた。
そして未だスクアーロの肩に顔を埋めたまま、こもった声で途切れ途切れ言った。
 
「スクアーロに、バレないように…獄寺のフリ……しなきゃ、なんなかったんだけ、ど……スクアーロ見たら…どうしても我慢出来な…かった、のな……っ」
 
「武………」
 
可愛い事言ってくれるじゃねーかぁ!!と思いつつも、やはり外見が違うため違和感がある。
彼は彼なのだが、どうにも落ち着かない。
 
スクアーロはその両肩を掴んで優しく自分から引き剥がす。
やはり、ぶっちゃけ少し気分が悪い。
 
 
「……武、効果が切れるのはいつだぁ?」
 
「ん〜…確か1日すれば元に戻るって言ってたのな」
 
今日は土曜日。
明日も学校は休みだ。
 
「おい、明日もここに来い」
 
「え?」
 
「もちろん、元に戻ったらなぁ」
 
「何で?」と山本はきょとんとする。
スクアーロは大きくため息をつき、彼の耳元で囁いた。
 
「愛し合う為に決まってんだろぉ。俺もテメェに会いたくて限界だったんだぁ」
 
「っ……!!」
 
かぁ――っと赤くなる山本。
顔は獄寺だが、スクアーロには真っ赤になって可愛い本来の彼の姿が脳内に浮かんだ。
 
 
「とりあえず、特訓は失敗だったのな」
 
「俺相手にバレねーとでも思ったのかぁ?」
 
「ん〜…自信はなかったけど…」
 
いつもは手を繋ぐところだが、やはり気がひける。
山本もやっと実感してきたのか、あまりスクアーロに近寄らなかった。
いくら中身が自分でも、自分じゃない身体と恋人が抱き合ったりくっついたりするのは気分が良くない。
 
 
端から見れば異様な2人組が、仲良く並んでヴァリアーの廊下を歩いていくのだった。
 
 
 
 
 
 
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