献上小説置き場

□その炎の名は
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一方ザンザスは、ツナを捕らえた敵マフィアのアジトに来ていた。
メチャクチャに門やらドアやらを壊し、恋人を探す。
あっという間に本部の最奥の部屋まで辿り着いた。
やはり、彼はそこにいた。
 
「なっ…たった1人にここまでの侵入を許したというのか??!!」
 
ボスであろう男が部下を怒鳴りつけて焦る。
その横では幹部らしき人物がツナを捕らえていた。
薬を飲まされたのか、彼は眠っていた。
 
もう1人のガタイのいい幹部が前に歩み出る。
 
「ご安心を、ボス。この人質がいる限り、彼は我々に手出しは出来ませんよ。そうでしょう?ヴァリアーのボス、ザンザス」
 
「……………」
 
だがザンザスにはそんな男の話など全く耳に入っていなかった。
ただ見つめるのは愛しい彼一点のみ。
 
そしてツナを捕まえた奴らがザンザスを攻撃しようと近づいたところで、彼が消えた。
いや、正確にはものすごく速く移動したのだ。
そしてツナを捕まえていた幹部を一撃で倒すと、しっかりと人質を取り返した。
 
「なっ………」
 
周囲は驚きや恐怖の顔色をし、逃げようと後ずさりした。
だがそんな事を許す程、マフィア界の黒い野獣と呼ばれたザンザスは甘くはなかった。
逃げ惑う男達を怒りに任せてひたすら殴りつける。
もちろん、憤怒の炎を纏った手で。
 
銃などという物は使わない。
この素手で皆殺しにしてやる。
 
もはや彼にとってこの集団は、ツナを傷つけ連れ去った奴ら、としか見えていなかった。
 
 
 
 
 
「………ん…?」
 
そこで薬の効果が切れたのか、ツナが目を覚ました。
そして目の前の惨劇に目を見開く。
 
視界は赤と黒の2色で占められていた。
無力な男達を1人の男が容赦なく叩きのめしている。
 
それが自らの恋人だと、理解するのに時間がかかった。
 
もはや腕や足がありえない方向に曲がっても殴り続けている。
そしてありえない程の憤怒の炎。
 
 
「やっ、やめてくれっ!!我々はただ交渉を……ぎゃああぁぁあぁ!!!!」
 
室内に漂うのは鉄の匂い。
響くのは強者の叫びと弱者の悲鳴。
見えるのは人に降りかかる鮮血。
 
 
見ていられなかった。
 
 
「もうやめてザンザス!!俺は無事だから!!彼らは十分報いを受けたから!!」
 
ツナが腰にしがみつくと、彼の動きが止まった。
 
 
「綱吉…?」
 
「ザンザス、俺だよ。無事だから、だから……」
 
自然、ツナの目からは涙が流れていた。
怖かったのではない。
悲しかったのだ。
見ていられなかった。
こんな一方的な殺戮を。
 
 
ザンザスはしばらくの間呆けたようにツナを見つめると、突然その小さな身体を抱きしめた。
それから「綱吉…綱吉…綱吉……っっ!!」と確かめるように名前を呼ぶ。
 
「大丈夫だよ、ここにいるから」
 
強く締めつけられて少し痛かったが、その腕をほどこうとは思わない。
その腕に込めた強さが、彼の気持ちだった。
 
 
ザンザスはツナを抱きしめたまま苦しそうに声を出した。
 
「綱吉…っ!!俺があんな奴らに隙を作ったせいで……俺があの時間に合わなかったせいで……俺がおまえの傍にいなかったせいで……俺が…」
 
「ザンザス、違うよ」
 
ツナがぴしゃりと彼の言葉を遮断した。
そして一旦背中に回された腕を優しく下ろすと、真っ直ぐにその深紅の瞳を見つめる。
 
「ザンザス、ザンザスは何も悪くない。俺が勝手に飛び込んで勝手に怪我して勝手に連れ去られて……勝手に思ってたんだよ、ザンザスが絶対に助けに来てくれるって」
 
「綱吉…」
 
「だからさ、自分を責めないでよ。ザンザスはちゃんと来てくれたじゃん」
 
そうでしょ?と笑いかければ、我を取り戻したかのようにいつもの顔で「あぁ」という返答が返ってきた。
 
 
 
あの時飛び込んだのも、身体が勝手に動いたから
 
ザンザスが危ない、そう思ったら考えるより先に足が動いてた
 
捕まっても、どんな場所だろうと彼が来てくれると信じていたからちっとも不安じゃなかった
 
怖くなかった
 
 
 
 
 
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