献上小説置き場
□過去
2ページ/3ページ
「ザンザス……俺、いない方がいい?」
「…いや、ここにいてくれ」
そう言い、ザンザスはツナの肩を抱き寄せる。
それからテレビの電源を消した。
しばらく、無音が部屋を支配する。
「…ザンザス…聞いてもいい?」
「何だ」
「ザンザスの…小さかった頃の話…」
慌てて「言いたくなかったらいいよっ」と言うツナに首を振り、ザンザスは語り出した。
「とにかくいい記憶はないな。暗くて汚い場所、周りの奴らもそんな奴らばかりだった。犯罪なんて日常茶飯事、母親はろくに仕事も探そうとせずにフラフラしてたな」
「そう…なんだ…」
自分には想像もつかない。
「だが、俺に死ぬ気の炎が出た途端馬鹿みてぇに喜びやがった」
「それは…」
そうだろう。
ボンゴレと言えばマフィアの中でもトップ、当然金も余る程ある。
毎日に生活でいっぱいいっぱいだった者にとって、ボンゴレと関わりがあると思われる証拠があればその庇護下に置かせてもらえる。
苦しい生活から抜け出せるのだ。
これ以上の事はない。
「それからはおまえが知ってる通りだ」
「そっ…か…」
「何でテメェがそんな顔してんだ」
「だって……ごめん、嫌な事思い出させて…」
「気にしてない」
だが、ザンザスはやはり浮かない顔をしていた。
「……ねぇザンザス、俺さ…ザンザスと会えて本当に良かったと思ってるよ」
「…………」
「でもそれってさ、ザンザスの過去がどれか1つでも違っていたら今こうはなっていなかったんだよね」
「……………」
「だから…俺は、ザンザスが辛かったその時も必要で大切だったんじゃないかなって思う」
「綱吉…」
ザンザスはツナのおでこに軽くキスを贈る。
それからぎゅ〜っと抱きついた。
「ザンザス…?」
呼びかけるが、無言のまま強く強く抱きしめられた。
それから小声で、本当に小声で囁かれた。
「…綱吉……ありがとう」
「っっ……うん。こっちこそ、ここまで来てくれてありがとう」
それから強く強く抱きしめあい、深い深いキスをした。
いつもよりどことなく弱そうな恋人を可愛いと思いながら、ツナはその熱い口付けに答える。
ザンザス
ここまで…俺のところまで来てくれて
本当にありがとう
ザンザスは、母親ですら与えてくれなかったこの暖かなぬくもりを感じながら、らしくなく幸せだと思った。
→後書き