献上小説置き場
□お友達も執事持ち
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沢田綱吉。
沢田財閥の跡取りであり、つまりはお坊ちゃまであるが、当の本人はそんな自覚はあまりなく、中身はただただ平凡に過ごしたいと願う普通の男子中学生だった。
だがその願いは数年前にあっけなく壊された。
父親が連れてきた執事のせいで。
その執事の名をザンザス。
強面だが礼儀正しく頭もよく、おまけに完璧に執事の仕事をこなす。
周囲もそんな彼を常に賞賛していた。
だが、綱吉は知っている。
この執事の裏の顔…いや、本性を……。
「はぁ〜…」
放課後の教室でため息を吐く綱吉。
学校はいたって普通の中学だ。
自分が沢田財閥の後継者だという事も親しい者達しか知らない。
その1人、山本がそんな彼に声をかけてきた。
「よぉツナ、どした?暗い顔して」
「山本…」
中学に入って出来た親友。
頭は…まぁおいといて、優しくてスポーツ万能で頼りになる存在だ。
そして、綱吉の素性を知る数少ない友達でもある。
「いや、ウチの執事がさ………そうだ、山本!!」
「ん?」
部活は野球部で家は寿司屋、そんな彼だが、実は綱吉と同じ金持ちのお坊ちゃまなのだ。
確かに彼の父は寿司を握るのが得意で実際作っているが、それも趣味の範囲内だ。
本来は山本財閥の当主であり、沢山の有名な会社をまとめている。
自分と似た山本ならば、もしかしたらわかってくれるかもしれない。
綱吉はそう思い。彼に相談してみる事にした。
「実はさ、2年位前から専用の執事がついたって言ったじゃん?」
「あぁ、ザンザス…だっけか?最初の頃スッゲー褒めてたよな、ツナ。最近は話聞かねーけど、そいつ絡みか?」
そう、最初の…つまりザンザスが猫被っていた時は、「いい執事が来てくれた」と山本に嬉々として話していたものだ。
今はその本性を周囲に曝け出してしまいたいくらいだ。
…誰も信じないだろうが。
「そう、ザンザスなんだけど……山本もさ、専用の執事とかついてんの?」
「あぁ。俺は結構最近かなー」
「ど、どんな人?!」
非っ常〜に気になる。
「どんなって……スッゲー優しいし、家事とか完璧だし、勉強も教えてくれんだぜー」
「………」
綱吉は思い出す。
それはどう考えても、最初自分がザンザスに持っていた印象と同じだった。
「ねぇ山本、今日山本ん家に行ってもいい?」
「んぁ?別にいいけど?ちょうど部活もねーしな」
「ありがと。じゃあ一旦帰ってから行くね」
「おー。待ってるなー」
そして綱吉は家に戻った。
山本は大事な親友。
ダメダメな自分に気軽に声をかけてくれた唯一の人。
だからこそ、心配なのだ。
その執事について。
猫を被っている可能性は十分にある。
自らの執事のように……。
親友の身は守ってあげたい!!
綱吉は彼の執事の本性を暴くため、素早く出かける支度を整える。
だが、それを黙って見ている執事ではなかった。
「何処へ行く」
「ザンザス……そんなに睨まないでよ。山本ん家に行くだけだよ」
「……アイツか。なら俺も行く」
「えっ……」
「何か不都合でもあるのか?」
「な、ないけど…」
ザンザスがいてはいろいろとやりづらい。
だがこの様子だとダメと言ってもついてくる気だろう。
「…おとなしくしててよ」
「当たり前だ。俺はおまえの完璧な執事だからな」
堂々と自画自賛をし、うな垂れる主人に不適な笑みで答えるザンザスだった。