献上小説置き場

□たった1人の弟
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「ねぇお兄ちゃ………っ??!!」
 
そこでツナの言葉が途切れる。
ザンザスが「どうかしたか?」と尋ねるが、ツナは何でもないと返した。
 
…何でもなくなんかない。
 
ツナは固まる。
 
今、自分のお尻を誰かが撫でている……。
 
手が当たったとかそんなレベルじゃない。
ねっとりとした撫で方。
だが叫べない。
こんな自分が痴漢をされたと言って、一体誰が信じるのだろう。
 
そしてなんと、その手が前に向かった。
 
「ひっ………」
 
ツナは思わず声をあげる。
怖くて目をぎゅっとつぶった。
 
だが、突然その手が離れる。
ホッとして恐る恐る振り返ると、すぐ後ろの男の手を兄が掴んでいた。
 
 
「お兄ちゃん…」
 
ザンザスは射殺しそうな程の目で相手を睨み付ける。
 
「テメェ…よくも人の弟に………覚悟は出来てんだろうな」
 
「ひっ…」
 
どうやらそれにビビッている男が先程の痴漢の犯人らしい。
なんと、同じ高校の生徒だった。
 
 
「おい綱吉、コイツに見覚えは?」
 
「え…な、ないけど……」
 
全く知らない人だった。
 
周囲は満員でガヤガヤしているため、あまり目立ってはいなかった。
だが、何故男の彼が同じ男の自分に……。
 
するとその男は完全に迫力負けし、掠れた声で話し出した。
 
「と…隣のクラスの沢田綱吉君に一目惚れして……どうしても抑えられなくて……」
 
「だからってこんな事が許されると思ってんのかぁ?!」
 
「ごっごめんなさい〜っ」
 
男の襟元を掴んで今にも殴りかかりそうな兄をツナは慌てて止める。
例えどんな理由があろうと、暴力はいけない。
 
「お兄ちゃん、もういいよっ」
 
「綱吉っ……だが…」
 
ツナは痴漢をした男に向き直った。
 
「あの、俺に言いたい事があるなら直接言って下さい。もうこんな事は…その…やめて下さいませんか?」
 
「甘いぞ綱吉っ!!」
 
それでもツナは譲らなかった。
話し合いで解決出来るのなら、それにこした事はない。
 
すると男は一瞬言葉に詰まったが、結局うな垂れてもう一度深々と頭を下げると途中で電車を降りて行った。
 
 
 
 
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