献上小説置き場

□幸せな寝坊
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朝。
 
 
「………最悪だ……流された…」
 
上半身を起こし隣を見ると、まだぐっすりと眠る同居人……恋人の姿が。
そういえば王冠をつけていない。
昨日もつけていなかった気がする。
 
獄寺は腰の痛みに驚きながらも、そっとベッドから出てベルの寝室へ向かう。
そしてベッド脇の棚の上に王冠が置いてあるのを見つける。
それをそっと手に取ってみる。
今まで散々見てきたのに、こうして触るのは初めてな気がする。
 
「……………」
 
至って普通の王冠だ。
だが、何故か愛しい。
そしてまだ夢の中の彼のためにそれを持って自室へ戻った。
 
 
 
 
戻ると、ワガママ王子はまだ眠っていた。
その幸せそうな顔がちょっとだけ憎たらしい。
自分は今までにないくらい腰が痛いというのに。
 
その緩みきった頬をつねる。
するとやっと目を覚ました。
 
「ん〜……あ、隼人…おはよ〜」
 
「おう。やっと目ぇ覚めたか」
 
そしてベルは枕元の時計を見る。
 
「あ〜…もう午後1時かぁ……」
 
「……何ぃ??!!」
 
ベルの言葉に獄寺は時計をぶん取り確認する。
そこにはしっかりと短針が1に合わされている時計が。
目覚ましはいつの間に鳴ったのかすでに過ぎている。
確か午後の授業は1時10分から……。
 
「学校?休んじゃえば?」
 
「駄目だ!!10代目をお送りしなければ……!!」
 
「でも、もう遅いんじゃん?」
 
「くっ………」
 
ベルはそんな獄寺を見る。
たまには自分の事だけを考えてほしいと思ってしまう。
彼の沢田綱吉に対する感情は純粋な尊敬なのだとわかってはいるけれど、やっぱり気に入らない。
 
「隼人、サボっちゃえば?」
 
「…………」
 
確かに、今更行ったところで面白くもない授業が待っているだけ。
 
ふぅ〜…とため息をつき獄寺はその場に座る。
さっきから腰が痛いし、それに力が抜けた。
 
「んじゃ、も1回ヤる?」
 
「ふざけんな、もう無理だ」
 
そして王冠を持っていたのを思い出す。
 
「それ……」
 
「ほら、持ってきてやったからありがたく思え」
 
「しししっ、ありがと隼人」
 
王冠を受け取り、いつものように頭に乗せる。
彼がわざわざ持ってきてくれたものだと思うと余計に嬉しい。
 
 
「隼人」
 
「あ?」
 
「大好き」
 
「っ……んなのとっくに知ってる」
 
「うん。隼人が俺の事大好きなのも知ってるから」
 
「はぁ?!誰が」
 
「隼人が」
 
「……………」
 
それでも、今回また惚れ直してしまったのも事実。
 
 
「……そう…だな」
 
「っ〜〜隼人大好き!!」
 
ベルは起き上がり、床に座る獄寺を後ろからガバッと抱きしめる。
離れろだの腰が痛いだのと騒いでいる腕の中の愛しい愛しい恋人。
 
幸せだ、強くそう感じた。
それに、自分がこんなにそっと人に触れるのにも自身で驚いた。
きっと、壊したくない、傷つけたくないと思える唯一の存在だからだ。
 
 
 
こんな寝坊も悪くない
 
 
お互い、そう思いながら笑い合うのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
→後書き
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