献上小説置き場

□年越しは大好きなあなたと
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「リボーン、お願いがあるんだけど」
 
「…何だ」
 
エスプレッソを優雅に飲んでいたリボーンは、その時間を邪魔され不機嫌そうに眉をひそめた。
 
「あのさ、大晦日と正月、修行休みたい…んだけど……」
 
段々とリボーンのオーラが黒くなるのを感じながら、それでもツナは言いきった。
 
「……そんな事が許されると思ってんのか」
 
 
「お願いリボーン!!ザンザスも休みが取れたって言うんだ!!一緒に過ごしたいんだよ〜」
 
「…………」
 
リボーンは考え込む。
あのザンザスが2日も休みを取った?
いくら正月だからって、…いやむしろそんな時だからこそ忙しいのだ。
そこで2日間も連休を取るとは、奴もかなり粘ったな…。
 
 
「リボーン…?」
 
黙り込んでしまったリボーンを不思議そうに見るツナ。
とにかく早く返答が聞きたかった。
 
 
「……大晦日と正月だけだぞ」
 
「えっ……ありがとリボーン!!」
 
嬉しそうにリボーンに抱きつこうとし、それを軽く避けられた。
 
 
ともかくも、あの鬼の家庭教師から休暇を2日も得られたのだ。
それには驚いたと共に、今まで決して楽しみではなかった正月がすごく楽しみになったツナだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
大晦日。
 
一緒に過ごせるといっても、午後からだ。
ザンザスには夜までは来ないように言っておいた。
かなり文句や質問を浴びせられたが。
 
 
 
何故ザンザスとは夜に会うのにツナは1日休みを取ったかというと、それには訳があった。
大晦日、今までは普通に夕飯に年越し蕎麦を食べて紅白歌合戦を見るくらいだったが、今年はランボやイーピン、フゥ太にビアンキと居候が大勢いるので母である奈々がパーティーをやろうと言い出したのだ。
それを聞き、ツナも何か1つでも作りたいと思ったのだ。
もちろん、彼のために。
女々しいとは思うが、それが彼に出来る精一杯の事だった。
お金のかかるものは無理だし、第一そんなもの自分があげるまでもなく彼は持っているだろう。
 
 
 
「ツッ君〜、出来たぁ〜?」
 
奈々が隣から覗いてくる。
 
「ううん、もうちょっと。でも、夜までには間に合いそうだよ」
 
そう言うツナの手元には、不器用な形のクッキーが。
ホントに女々しいとは思うが、1番簡単なのはこれだと母が言っていたのを聞き、作ろうと決めたのだ。
 
普段料理などしないツナ。
簡単なはずのクッキーでさえも美味く出来るかどうかわからない。
いや、途中経過のこの段階で結果は想像出来るだろう。
だが母が「料理は心よ!!」と言っていたので、とにかく心だけはこもっている。
それだけは自信があった。
 
 
 
 
 
 
夜。
 
ザンザスが来た。
だが1階には来ない。
ランボ達が怯えるからだ。
まぁ無理もない。
元々顔は怖いし、リング戦では敵で、その前にもフゥ太やイーピンも彼の部下に襲われている。
なのでザンザスは大抵、ツナの部屋の窓から入って出て行く。
 
今日もそうだった。
 
 
 
「よぉ。こんなに待たせたからには何かあるんだろうな」
 
「ア…アハハ…お待たせ」
 
苦笑いして応え、ツナは恐る恐る作りたてのクッキーを取り出し、ザンザスに差し出した。
 
「………」
 
何だこれは、と聞かれる前に「クッキーだよ、一応…」と言う。
 
「クッキー…」
 
普段ツナが料理などしない事を知っているザンザスは、不思議そうに出された皿を見る。
少しイビツだが、それでも彼が自分のために一生懸命慣れない事をしたと思うと顔が緩んでくる。
それで今日は夜に来いと言ったのかと納得する。
 
 
「形はこんなんだけど、味は悪くはないと思うんだっ」
 
懸命にそう言うツナの目の前でクッキーを食べる。
確かに形は良くはないが、味は美味しかった。
というか、市販のものよりもなんだか……
 
「甘くない」
 
そう、あの甘ったるさがない。
 
「ザンザス、前に甘いのあんまり好きじゃないって言ってたでしょ?だから甘さ控え目にしてみたんだけど…」
 
どうかな?と言うツナに、ザンザスは一言「美味い」と言った。
その一言に、ツナの顔は満面の笑みになる。
そして「良かったぁ〜」と胸を撫で下ろした。
 
「それに、甘さ控え目なだけじゃないよ?それ。もう1つ、あるものが入ってんだ」
 
「………?」
 
何だかわからないというような顔をし、ザンザスは無言で先を促す。
 
 
「愛、だよ」
 
 
「………」
 
 
言ってから恥ずかしくなったのが、ツナは顔を真っ赤にして下を向く。
そんな彼が愛しくて、ザンザスはぎゅ〜っとツナを抱きしめた。
 
「ありがとう」
 
「…どういたしまして」
 
自然と目が合い、唇が重なる。
 
しばらく、クッキーよりも甘い甘い時間が流れた。
 
 
 
 
 
 
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