献上小説置き場
□今はこのままで
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1週間ぶりに、ルッスーリアは日本に来た。
というか帰って来た。
もう彼の帰る場所はイタリアでもヴァリアーでもない。
愛しい愛しい、恋人の元。
「ただいま了ちゃ〜んっ」
語尾にハートマークをあり得ないほど飛ばして、ルッスーリアは恋人の元へ帰る。
「おぉ、ルッスーリア、か」
「っっ!!!!」
あと1メートルというところでルッスーリアがその足取りを止める。
そしてその笑顔をさらに緩くして、再び走り出して了平を力一杯抱きしめた。
「……っ了ちゃん!!私の名前、やっと覚えてくれたのねっ」
そう。了平は今まで“ルッスーリア”という長いようで短い名前を覚えられなかったのだ。
いつも「ルッ…アー?」とか「ル…ル……?」といったように、1日で見事に忘れてしまうのだ。
まぁ、そんな馬鹿で可愛いところも、ルッスーリアが彼を好きになった要素の1つなのだが。
そして1週間がたち、今日。
1日でも忘れていた自分の名前を、了平が呼んだのだ。1字1句間違えずに。
これはもう嬉しいとしか言いようがない。
一方、了平はルッスーリアの腕の中で満足そうに笑っていた。
実はこの1週間、ずっと練習してきたのだ。
普通の日本名でさえ覚えるのに時間のかかる了平。
とりあえず紙に名前を書き、ボクシングの合間には必ずルッスーリアの名前を連呼していた。
それこそ、登校中や休み時間、風呂場や寝る前なども。
そしてやっと覚えたのだ。
さらにルッスーリアから会いに行くと連絡が入り、今度こそちゃんと名前を呼ぼうと決心した。
普段、自分が彼の名前を呼べない時、笑って「しょうがないわね〜」とか言っているが、どこか寂しそうだった。
だから笑ってほしかったのだ。ちゃんと名前を呼んで。
だが、1つ嬉しい誤算が。
ルッスーリアが予想以上に喜んでいるのだ。
正直少し驚いた。
「極限に嬉しそうだな!!」
「そりゃあそうよぅ。頑張って覚えてくれたのね、私嬉しいわ〜っ」
実は了平は自主トレの最中。
今日は日曜だというのに、家の周りをロードワークしていた。
そこへルッスーリアが現れたのだ。
そして住宅地の道のど真ん中で熱い抱擁。しかもガタイのいい男2人。
通行人がいなくて幸いだ。
ちなみに了平は、スキンシップの激しい奴だな、くらいにしか思っていない。
「俺も極限に嬉しいぞ!!」
ガタイがいいと言っても、了平はまだ中学生。
10歳も年上の恋人の腕の中にすっぽりと収まってしまう。
こうしていると体格の差を感じずにはいられないが、だからこそ目標が高まるというもの。
了平にとってルッスーリアは、1番身近にいる今までで1番の目標であり、尊敬の対象でもあった。
リング戦では勝ったが、それでもまだまだ彼から学ぶ事は多い。
今では仕事がない時、こうして会いに来てくれ、修行に付き合ってくれる。
ルッスーリアにとっては、このくらいの身体も好みだし、自分より大きくなってほしくはないのだが。
そこへ、思わぬ通行人が。
「あっれー?おまえらこんな道中で何やってんだー?」
その陽気な声は、明るい笑顔と共にやってきた。
そして、隣ではいけないものを見てしまったような顔のイタリア人が。
「ぬ、貴様らは…」
「あらぁ、雨コンビじゃないのぉ」
ルッスーリアは一旦、了平を離す。
そして雨コンビ、もとい山本とスクアーロを見た。
2人は私服で、どっからどう見てもデートの途中だった。
「う"お"お"お"い!!ちょっとは人目も考えろぉ!!」
仲良く手を繋いでいる奴に言われたくもないが。
「ぬ、野球小僧、野球はどうした?」
「あぁ、今日は休みなんだ。先生が、たまには休息も必要だって」
「そうか!!極限に休んでいるのだな!!」
そう言ってガッツポーズをする了平。
そんな彼を隣で頬を染めて見つめるルッスーリア。
自分の事は棚に置き、スクアーロはその様子を見てげんなりしていた。
「にしても、テメェら何だぁ?修行かぁ?」
「そーゆーあんた達こそ、……って、デートよねぇ、その様子だと」
「おうっ。これから一緒に買い物行くのな〜」
そう言ってにっこり笑い合う山本とスクアーロ。
上機嫌で歩いて行ってしまった。
もちろん、手を繋いだままで。
正直、うらやましい。
ルッスーリアは、そう思わずにはいられなかった。
この2人は両想いだ。
山本も、ちゃんとスクアーロの「好き」の意味をわかっている。
だが自分の恋人は、いくら「好き」だと言ったところで、きっとその本当の意味は伝わらないだろう。
「天然すぎるのも、困ったものねぇ」
「む?何がだ?」
「いいえ、何でもないわ」
それに、よく言うじゃない
先に惚れた方の負けだって
「さぁ了ちゃん、家まで競争よっ」
「極限に勝ぁつ!!」
今は、このままが幸せなの
でも、いつか覚悟しておいて
私の本当の気持ち
一生をかけてわかってもらうから
→後書き