記念品小説
□女の子×男の子
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ピンスク続
そして10年後はどうだったかというと。
イーピンとスクアーロはのんびりソファーに座ってお茶を飲んでいた。
最近イーピンが祖国に行き、大量にお茶を買ってきたのだ。
それにスクアーロも付き合わされる形となっていたが、確かにお茶は嫌いではない。
そして突然の煙。
スクアーロはこの煙に見覚えがあった。
やはり、煙が晴れてそこにいたのは、10年前のイーピンの姿。
きょとんとし、何が何だかわからない様子だった。
「おい、おまえ…」
スクアーロが話しかけると、ようやく気づいたのか顔を上げ、その目つきの悪さに恐怖し思わず後ずさった。
「£υτ∈っ」
「……俺はスペルビ・スクアーロだぁ。日本語を聞き取るくらいは出来んだろぉ?」
「…………」
イーピンは不思議そうに、こくんと頷いた。
実はスクアーロ、中国語を勉強しているのだ。
別にこれは強制された訳ではない。
ただ単に、1つでも多くの国の言葉を使えた方がいいと思ったからだ。
…決して彼女の母国語を覚えたくて始めた訳ではない。
ただ、まだ聞き取るのが精一杯。
目の前のイーピンのような感じだ。
だがこれなら、彼女が中国語で自分が日本語で話せば会話は出来る。
スクアーロは小さなイーピンを自分の膝の上に乗せる。
抱き上げた時に抵抗されるかと思ったが、おとなしいものだった。
言葉が通じるとわかって少し安心したのだろうか。
「ここは10年後の世界だぁ。おそらく5分したら戻れると思うぜぇ」
「○δλ!」
嬉しそうに頷き、勧められたお茶菓子を頬張るイーピン。
「……………」
可愛い……不覚にもそう思ってしまったスクアーロ。
つるつるなその頭を撫でれば、さらにニコッと可愛く笑った。
そしてちゃんと手についたお菓子のカスをはらうと、控え目にスクアーロの長い銀髪に触れようとした。
だが手を伸ばし、そこで止まる。
不安そうに見上げてきた。
「気になるのかぁ?触ってもいいが、抜くなよぉ」
笑って言うと、イーピンは嬉しそうにそっと髪に触れた。
そして綺麗だ綺麗だと感動する。
10年後の彼女には「最近、髪痛んできてない?もう年だものね」なんていつも言われているが。
そしてやっと気づく。
すでに5分以上経過している事に。
「……バズーカの故障かぁ?」
「…?」
不思議そうに見上げてくるイーピンに何でもないと微笑み、不安を与えないようにする。
おそらくは時間の誤差であって、いつかは戻れるだろう。
それに、10年前の彼女は非常に可愛い。
見ているだけで癒される。
「お"、ついてるぞぉ」
イーピンの口の端にお菓子の欠片がついているのに気づき、スクアーロはそれを取って自分の口に入れた。
途端、彼女の顔がボンッと赤くなる。
そしてすぐにピンズが出てきた。
「う"お"っ、アレかぁ!」
イーピンが幼い頃、しょっちゅう爆発する人間爆弾だという事は知っていた。
だがスクアーロは、まさに爆発しようとしている彼女を外に投げるような事はせず、それどころかぎゅっと抱きしめた。
「жΣб!!」
「あ"?放せだぁ?んな事するかぁ。俺を巻き込みたくなかったら爆発を止めてみろぉ」
「っ!!」
スクアーロは知っていた。
イーピンの筒子時限超爆が、必ずしも周囲にだけ影響があるものではない事を…。
爆発の中心にいるのだ、本人が何もない訳がない。
ほとんど外傷はないにせよ、消耗が激しいのだ。
だから、出来るならもう爆発してほしくない。
成長すればピンズも現れる事がほとんどなくなったが、幼い頃はしょっちゅう爆発していた。
今からでも、やめさせられるならやめさせたい。
「出来るはずだぁ、イーピン」
「っ〜〜〜〜!!」
イーピンは握り拳を作って力を入れる。
すると、次第におでこのピンズが薄れてきた。
「おまえ、やれば出来るじゃねーかぁ!」
「っ!」
その途端、またピンズが濃くなる。
そして………
ドオォンッ
爆発、した。
「…………………」
灰色の煙の中、スクアーロはボロボロになりながら起き上がる。
その腕の中には、イーピンがいた。
「£λ∃っ」
「あ"ぁ"…大丈夫だぁ」
イーピンを抱える形で抱いていたため、部屋にはさほど損傷はない。
爆風で物が落ちたり少し焦げたりした程度だ。
だがその分、スクアーロへの衝撃が酷かった。
「っう………」
思ったよりダメージがある。
だが見た目は火傷などでボロボロに見えるが、そこまでではない。
心配そうなイーピンにも、スクアーロは笑ってその頭を撫でた。
「惜しかったなぁ」
「δΨυ」
「謝んなぁ、大丈夫だって言ってんだろぉ?」
おそらく、ピンズが薄くなった時に褒めたのがまずかったのだ。
そこでイーピンがまた照れてしまい、ピンズが濃くなってしまったのだ。
それから軽く傷の手当をし、またソファーに落ち着いた。
「次はきっと、ピンズを抑えられるぞぉ?頑張れぇ」
「Яδ!」
スクアーロの傷がそれほど深くない事に安心したのか、イーピンは笑顔で頷く。
その笑顔にまた、スクアーロは微笑み返した。
本当に、今の彼女とは別人のようだ。
見た目もそうだが、中身も……いや、笑顔は変わらないかもしれない。
スクアーロは、今までのイーピンを思い返した。
沢田綱吉やアルコバレーノへの用が増えて沢田家によく行くようになってそこでたまに見かけ、いつの間にか後ろをちょろちょろついて回られるようになった。
そしていつからか片言の日本語を話し始め、少しずつ話しかけてくるようになった。
それが段々強引になり、しつこくついて回るようになり、いつの間にか立場が逆転して彼女の方が強くなっていったのだ。
「………………」
思い出していて、スクアーロは段々青ざめてくる。
いつ、どこからあんな風に育ってしまったのだろうか…。
気づくと、イーピンが心配そうに覗き込んでいた。
「あ"ぁ"、ちょっと考え事してただけだぁ」
そしてまた優しくその頭を撫でる。
「…素直に育てよぉ?」
冗談っぽくそう言った途端、煙が立ち込めた。
爆発ではない。
突然膝の上にのしかかる体重。
だが慣れた重さ。
「……ただいま」
この世界のイーピンが、戻って来た。
「長かったなぁ」
「まぁね。………ってか、何で膝の上?」
「それは……」
とりあえず下りて隣に座ると、イーピンは部屋の状態とスクアーロを見比べる。
「……何かあったの…?」
「まぁなぁ」
そして一部始終を話した。
「そうだったの。私は私で、若い頃のスクを見られて得した気分よっ」
「…あれがトラウマになったからなぁ」
「あら、覚えてるの?」
「たった今思い出したんだぁ」
イーピンは微笑み、傷だらけのスクアーロの顔を撫でる。
そしていたずらっぽく笑った。
「5歳の私、可愛かったでしょ?」
「同一人物とは思えない程になぁ」
「ちょっと、どういう意味よっ?」
「そのままの意味だぁ」
スクアーロのほっぺをぐいーっと引っ張ると、慌てて「冗談だぁっ」と返ってきた。
「でも、今の私も可愛いでしょ?」
「自分で言うかぁ?」
「スクは昔も今も、可愛いわよ」
「かっ…?!30過ぎた男に可愛いはちょっと…」
「何よ、褒めてんのよ?」
「……………」
ニコッと笑うイーピン。
その笑顔は、10年たっても変わっていない。
スクアーロは苦笑し、今の彼女がやっぱり1番可愛いなんて口が裂けても言えないな…と思うのだった。
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イーピン×スクアーロでした。
まさかまさか、こんなに長くなるとは…。
なので分けました。
好きだと言ってた割に、文を書いたのは初めてな気がします。
2009.10.04移動