記念品小説
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ベルがアパートに居候し始めてから数ヶ月。
もうすっかりこの暮らしにも慣れてしまっていた。
「はぁ〜……」
獄寺はため息をつく。
何故なら、同居人…いや居候か…の様子があからさまにおかしいからだ。
いつもならうるさいくらいに絡んでくるし話しかけてくる。
だが、今日はやけにおとなしかった。
「……………」
「……………」
ソファーにグダーっと寝そべり、ナイフをプラプラさせているだけ。
どこか上の空だ。
獄寺は適当に家事をしながらその様子を見ていた。
静かでいいのだが、何か調子が狂う。
するとベルは突然立ち上がり、寝室へ向かった。
今はまだ9時。
それでなくても夜型の彼がこんなに早く寝室へ行くとは、珍しいというかありえない。
獄寺は声をかけようとしたが、結局そのまま見送ってしまった。
「……おかしい…」
おかしすぎる。
家事を一通り終えた獄寺は、先程ベルが座っていたソファーに腰掛けて考える。
いつもだったら、早く家事終わらせて一緒に遊ぼうだの今日こそは一緒の部屋で寝ようだのとうるさい。
後ろから抱きついてくる事だってしょっちゅうだ。
なのに、今日はそれが全くといっていい程ない。
「まさか……風邪とか…?」
よく、風邪をひいたり気分が悪くなったりするとどんな奴でも人が変わったように静かになると聞く。
まさかアイツが風邪……いや、でも一応人間だし……。
軽く失礼な事を考えながら、それならば放っとく訳にもいかないと、獄寺は無理矢理作った居候の寝室へと向かった。
口で何と言おうと、やっぱりこれだけ一緒に住んでいればそれなりに情は移る。
心配なものは心配だし気になるものは気になる。
彼の普段のぶっきらぼうな態度は、今やほとんどが照れ隠しであった。