☆NOVEL

□小学生と高校生。
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「おにいさーーーーーん! その人捕まえてーーーーー!」

 降り注ぐ灼熱の太陽の元、汗をタラタラと流しながらチョコアイスにかぶりつき、みるみる溶けて指まで垂れてきたカカオをペロリとひと舐めしていたその背後から、それはそれはよく通る幼い少年の声が周囲に響いた。
 黒羽はその知り過ぎている声に心中ギクリとしながらも尊敬する師の教えを忠実に守り、あたかも「何事だ?」という表情で振り返る。自分の特技の中に声帯模写なんてモノがある為、一度聞いたらその人物の声を記憶するなど造作もない事だ。ちなみに今己の耳に届いた声を聞いたのは一度や二度どころではない。だから出逢う時刻は違えど相手は姿を見ずとも分かってしまった。
 そして、視線の先にはその少年に追い掛けられて、こちらに一直線に向かってくる大きなカバンを小脇に抱え走ってくる男。どうやら自分を蹴散らす気満々の様だ、完全にラクビーのタックルの体勢になっている。
 勘弁して欲しい……このアイス、おっさんが自分の前にたどり着く前に食べ切る自信はないし、捕まえてと幼き子が必死に訴えているのに逃げる気にもなれない。だからと言って下手な動きをして目を付けられるのは真っ平御免だし。

「どけぇ!」
「えぇ?! うぁあ!」

 ビビってしゃがむフリして足をチョイと引っ掛けてやればヘッドスライディング宜しく派手にすっ転んでくれた。おぉ……痛そ。立ち去りたくともメガネの小学生はその小さな体でどーなってんの? という瞬足であっという間にすっ転んでいる男に辿り着き見下ろしている。不釣り合いの大きなメガネが、太陽の光を反射して表情が見えなくてコワイ。
 色んな所を擦りむいて相当痛かったのか、恨み言を言い、色んな所を引き摺りながらカバン逃げようとした男の背中へ、これまた小学生らしからぬ冷静な口調で動きを制した。

「無駄だよ、オジサンを追い掛けてる間に警察呼んで置いたからココで逃げても捕まるのは時間の問題だから」
「この、このガキ……」

 ギラリと物騒な光が瞳に宿り、子供に襲いかかったそのオッサンは、オレがどうこうする前に黄金の右足に沈んだ。ーーおぉ〜……相変わらずおっかねぇ〜……。
 アイスが溶けるのは嫌なので口と舌はせっせと動かし、コーンをスポリと最後に口の中へ放り込んだ。モゴモゴ口を動かしつつ、その一部始終をひたすら驚いた顔でまじまじと見つめれば、少年はハタと我に返ったのか一瞬で猫を幾重にも被りへにゃりと笑った。
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