☆NOVEL

□おしょーがつ。
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ちゃーん、ちゃかぽこちゃかぽん♪
ちゃーん、ちゃかぽこちゃかぽーーーーんっ♪

ーー新年、明けましておめでとう御座いm……
 全てを言い終わらないウチにオレ目掛けて飛んできたのは赤い物体。縁起物を木っ端微塵にする気も起きず、闘牛宜しくマントを受け皿代わりに衝撃を吸収し受け止めた。
 白に赤、紅白とはなんてめでたい色の組み合わせだろう。赤い物体の片目だけ黒丸。パンドラが見つかったらこのもう一つ目に黒丸塗って完成させよーかなぁなんて呑気に考えていたら今度は橙色が飛んできた。
 それはすんでの所で交わし頬スレスレを夜空に向かって飛んで行った。

「食べ物で遊んじゃいけませんって教えて貰わなかったか?」
「ばーろー、ソレはミカンを模した作り物だ。食い物じゃあねぇ」
「じゃー縁起物のだるまを蹴るなよ、バチが当たるぞ」
「そんなのオメーが゛福=@に当たりゃー済むはずだろ。避けるな」

 全く……ああ言えばこう言う。探偵って生き物は白馬しかり、皆口から産まれてんのかね……。
 新年一発目、流石のオレも正直家でコタツでごろごろしたかったが大晦日の年も明けるという頃合を見計らって、生放送で怪盗キッド……つまりはオレに年越し挑戦状を叩き付けてきたのだ。
 お陰でオレも中森警部も青子の準備をしてくれた年越しそばを食べる事なく駆り出され、現在に至る。

「なぁ……名探偵」
「なんだよ」
「オメーが機嫌が悪い様に、オレだって機嫌が悪いんだぜ?」
「………………お前が? なんで」
「あーのなぁ! オレだって人間なんだ、怪盗業は一時休止で年越しそば食って新年雑煮でも食ってぐーたらしようかって時に理不尽な挑戦状叩き付けられて年末年始台無しにされてんだぞ?!」
「……は?」
「言うなればオレもお前もあの鈴木のじーさんの被害者だって事だ、キッドキラーさんよ」
「…………あー……」

 この鈴木次郎吉と怪盗キッドの対決は生中継で、退屈な正月番組から開放される一大イベントになっていた。某テレビ局からすれば視聴率独占間違いなしだ。そしてそのスポンサーは鈴木財閥。悪意しか感じられない。もちろん、大勝利をおさめさせては頂いているが。
 結局パンドラではないし、それどころか鈴木氏も何処まで知っているか分からないがこの宝石自体が精巧に造られた紛い物……。
 ふと、カンカンと小気味の良い音がして視線を落とせば名探偵が器用にガチャポンサイズのカプセルをリフティングしていた。眼鏡が街灯に光って表情がよく見えない。
 見事なもんだなぁなんてフェンスに腰掛け眺めていたら、弧を描いてそのカプセルが飛んできたのをキャッチする。

「……ナニ?」
「あけてみろよ」

 カプセルをパカりと二つに割って空けてみれば……宝石を模した……指輪型の……。
 子供の頃によく指に嵌めてペロペロ舐めた事があるなぁ、と指で輪っかの部分をつまんで殆ど癖なのか月に翳していた。

「飴だからオメーの目当てのモンじゃねぇよ」
「知ってるけど……なぁに? コレ」
「小学生だし、金ねーしお年玉みたいなもんだ」
「お年玉?」
「キッドだから……子供だろ?」
「そりゃーどうも?」

 急にイタズラ心が芽生えて左薬指に嵌めて、その甘い甘い指輪に流し目でKissをしたら真っ赤になった名探偵が「その指に嵌めるな」とか「何時までダルマ抱き締めてんだ」とか何かギャーギャー言ってきたから段々と可笑しくなった。
 反応が面白くてふてぶてしい顔をしただるまにスリッと頬を擦り寄せて、への字の口に己の唇を近付けた所、バチバチという物騒な音と共に何かと共にダルマが吹っ飛ばされた。

「あー……ダルマが……」
「無機物とのラブシーンをオレに見せんじゃねぇ気持ち悪ぃ」
「…… そこ?」
「それ以外に何があんだよ」

 天然鈍感っておそろしい。飴とはいえ男に指輪贈ったり、その無機物のダルマに頬を寄せたダケで目の色変えて青筋を立てている事に気付いてないなんて。
 そういう系統は自身も相当疎い自覚はあるがそれでも自分はマジシャン。人の心理を読み解く力には長けているつもりだ。この小さな探偵が自分に向ける熱情は探偵だからな物ではない。その瞳がしっかりと「キッドが欲しい」と訴えかけているのを実は随分と前から知っている。その自分への想いに気付かないで欲しいと思う反面、その反応が面白くて……心地好くて嬉しくて、つい煽った行動をしてしまう。実のところ、こちらもまぁ……好意があるって事なんだけれど。
 そして、想像力豊かなのもマジシャンとして必要。そうでなければ怪盗なんておいそれと出来るものではない。だるまに対して行った行為を本人……つまりは名探偵本人にできるかと言ったら……俄然ムリ。死ぬ、恥ずくて死ぬ。
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