小説2

□廻り道
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昨日、何気なくテレビを見ていた。高校で野球をやっていたから、野球のニュースにはそれなりに興味がある。いつも通りに、いつも見ているスポーツ番組のチャンネルに合わせた。すると、大卒の選手がプロ入りするとのニュースがやっていた。そして、記者会見であいつが出て来た。久し振りに見た。しかし、長く会っていないなんて感じられなかった。毎日のように思い出していた。忘れたことなんてなかった。久々に見た実物の田島は、自分の頭の中の田島とは少し違った。高校のときよりも少し身体の線が太くなっていた。野球に関することならどんな努力も厭わない奴だから、頑張って4年間でプロ仕様の身体にしたのだろう。あいつは嬉しそうに入団について語り始めた。身体は少し大人っぽくなったが、声や表情は昔のままだった。感情が率直に表れている。そして、今後の抱負を一通り喋った後、記者から最後の質問が投げ掛けられた。

「今の気持ち、誰に伝えたいですか?」

「家族!それと・・・、梓に。まだ待ってるからな!」

そこで映像がスタジオに切り替わった。俺は心が揺らいだ。まだ、俺のこと覚えていてくれたのだ。そして、「まだ待ってるからな」と言っていた。そこで、俺はあの時の選択は間違いだったと気が付いた。あの時、強制的に田島の気持ちを断ち切ろうとした。それも、あんな酷いやり方でしようとした。しかし、断ち切れていなかった。あいつはまだ想い続けてくれていた。そして、俺は田島の「まだ待ってるからな」という言葉に甘えて、あいつの部屋の前まで来てしまった。






買い物袋を提げた女性とその子供であろう女の子がこちらに近付いてきた。その女の子がこちらをじっと見て来たが、母親はそれを制し、最初にこちらを一瞥しただけで、目線を真っ直ぐに向けて通り過ぎて行った。先程から何人か通り過ぎているが、俺は完全に不審者扱いされている。普段の俺なら、恥ずかしくて、居心地が悪くて、こんなところで座って待つことなんてしない。また、もう一人近寄って来た。何度も訝しがられたが、慣れはしない。しかし、そいつは俺の前を通り過ぎずに、俺の前で立ち止まった。恥ずかしくて、目線を下にしたまま頭をもたげた。

「もしかして花井?」

いきなり声をかけられた。驚いたが、その声が誰のものかすぐにわかった。声の方を向く。田島が俺の顔を覗き込んでいた。

「・・・田島。」

「来てくれたんだ!俺、ずっと待ってたんだからな!」

そう言って、田島は笑った。

「田島、ごめんな。本当にごめん。俺、嘘付いてた。自分の気持ちにも、田島にも嘘付いてた。今頃遅いかもしれないけど、俺、田島が好きだ。あの時、自分の気持ちに素直になれなかったんだ。男を好きになる自分を認められなかった。だから、田島にあんな酷いこと言ってしまった。それなのに、田島は『まだ、待ってるからな』って言ってくれた。本当に、ごめんな。」

言っている途中で視界が歪んできた。今まで、4年間もやもやしていた気持ち、胸につっかえていたものを全部吐き出すと、抑えていたものがなくなり、一気に溢れ出した。

「分かってるよ。だから、謝んなくていいって。こうして、俺のこと尋ねてきてくれたんだからさ。」

田島は言葉と身体で優しく、覆いかぶさるように包み込んでくれた。久し振りに田島の匂いと体温を感じた。

「大分、遠回りしちまったな。」

「そうだな。でも、最後には気持ち伝えてくれたじゃん。もうゲンミツに放さない。」

田島の肩越しに空が見える。いつの間にか雨は止み、雲は途切れ、太陽が世界を赤く染めていた。






後書き
毎度のことながら、お詫びをさせていただきたい、と思います。長い間更新をせず、申し訳ございませんでした。そして、またまた原作より未来の設定、シリアス気味にしてしまい、更に長い文の割りには面白くできていないことや、登場人物の性格が原作と変わってしまっていることも、併せてお詫び申し上げます。他にも力が及ばないところが多々あるかと思いますが、お許し下さい。
非常に申し上げにくいのですが、また更新が遅くなるかもしれません。
こんなサイトに少しでも興味を持っていただいたのでしたら、是非またいらして下さい。


END
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