小説2

□見舞
1ページ/2ページ

六時限目が終わり、ホームルームの時間が始まった。うちの担任の話はやたら長い。ぼーっとして聞き流していると、携帯が光った。

今日の朝練は珍しく静かだった。田島が来なかったのだ。そのときは寝坊したんだと思った。だからさほど気にも留めなかった。しかし、今メールで今日は部活を休むとの知らせが来た。風邪らしい。田島はちょっとした風邪くらいでは休まない。それなのに休むということはそんなにひどいのだろうか?しかし、熱が出て辛いときは、メールを返すのも億劫だろうから、「了解」とだけ打って返信した。






部活を終え、服を着替える。今日の練習は田島のことが気になって、あまり集中できなかった。明日は来るかな?やっぱり心配だし、メールしてみるかな。そんなことで悩んでいると、阿部が声を掛けてきた。

「花井。三橋が田島のプリント預かって来たみたいなんだ。だから、花井持ってってやってくんねーかな?」

ちょうど良かった。これならメールしなくても、プリントを持って行くついでに、様子を見ることができる。俺は了承して三橋からプリントを預かった。

「花井君、あっ、ありがと!」

「わりーな。これから三橋と話があんだ。」

そう言って二人は部室から出て行った。

俺はいつもより早く部誌を書き終わらせて、田島の家へと向かった。






田島の家に着いた。田島の家までは近いのだが、かなりスピードを出したせいか、結構息が弾む。インターホンを押すと、おばさんが出て来た。

「こんばんは!野球部の花井です。プリントを届けに参りました。」

「あら、花井君!わざわざありがとうね!」

「いえ。あの、悠一郎君の様態はどうですか?」

「えぇ、今朝は辛そうにはしてたんだけど、昼過ぎから少し良くなってきたみたい。」

「そうですか!あの、直接様子見てもいいですか」

「えぇ、それは構わないけど、風邪移るかもしれないわよ。」

「はい、大丈夫です。」

そう返事すると田島の部屋まで案内してもらった。

「田島、開けるぞ。」

返事がない。寝てるのか?今度は少し小さめの声で言って、扉を開ける。案の定ベッドの上で寝ていた。部屋は結構小綺麗に片付いていた。以外だな。教室の机の中はごみ箱のように詰め込まれているのに。おそらくおばさんが片付けているのだろう。高校生にもなって親に片付けさせるのか。呻きのような、欠伸のような声がした。

「わりー、起こしちまったか?」

「花井?何でここにいんの?」

声が嗄れている。三橋からもらったプリントを見せる。

「プリント持ってきて来れたんだ。ありがと。」

「気にすんな。見舞いも兼ねてんだし。やっぱまだ辛いか?」

「ううん。もう大分熱は退いた。まだ、声が嗄れてるけどね。」

「そっか。じゃあ、お前の睡眠邪魔すんのも悪いから、そろそろ帰るわ。」

「そんなことないよ。今日寝てばっかで、もう眠くないし。暇だからもうちょっといてよ。」

田島に頼まれると、断りにくい。それに、俺も本当はもう少し話したい。

「辛くなったり、眠たくなったら言えよ。」

そう言って部屋の中央にあるテーブルの前に座った。田島も布団から出て来て、向かい合わせに座る。

「横になってなくていいのか?」

「うん、大丈夫。ずっと寝てるのも疲れた。」

俺達は今日の部活の内容や学校での話など、他愛ないことまで喋った。そんなふうに話しているうちに、調子が戻ってきたのか、いつもの田島らしい発言が出て来た。

「あっ!俺、昨日から風邪ひいてたから、オナニーしてないんだった!ちんこ破裂したらどうしよう!」

・・・風邪ひいても、調子が良くなったら、すぐこれだもんな。

「ねぇ、花井!どうしよう?今からやろうかな?」

「馬鹿!絶対すんなよ!俺がいんだろが!それに、オナニーなんてしなくても破裂なんかしねーぞ!」

「えっ?そうなの?じゃあ精子はどこ行くの?」

「古くなったやつは分解されて吸収されんだよ。保健の授業で習っただろ?」

田島は首を横にブンブン振った。まぁ、こいつのことだから、寝てたんだろうけど。

「しかし、あれだなぁ。馬鹿は風邪ひかないって言うけど、違うな。」

「うん、そうだね。だって俺風邪ひいたもんな!」

田島でも自分が馬鹿ってことはわかってるんだ。にこにこしながら言うもんだから、なんだか可笑しい。

「よかった。これからは誰にも馬鹿って言わせないぞ!ゲンミツに!」

うん?なんか噛み合ってにいような気がする。

「何でこれからは言われないんだ?」

「え?だって俺風邪ひいたじゃん。だから俺は馬鹿じゃなかったってことだろ?」

「いや、俺は田島が風邪ひいたから、その文句は違うなって言ったんだ。つまり、馬鹿でも風邪ひくんだってこと。」

あっ、つい勢いで言ってしまった。田島がむくれている。

「あっ、いや、まぁ、そのなんだ。気にすんな。」

しかし、時既に遅し。後の祭りだ。

「なんだよー!花井まで俺のこと馬鹿って言うのかよ!」

「すまん!つい口が滑っ、じゃなくて、・・・悪かった。」

「・・・もういいよ。その代わり、一つ言うこときいてくんない?」

何をさせられるのだろう。田島の頼み事は面倒なことが多い。しかし、今回は自分に非があるため、断りづらい。

「何?」

「今日、まだ晩御飯食べてないだろ?だったら一緒に食べようよ。」

「晩飯か?うーん、うちももうできてるだろうしなぁ。ちょっと電話してみるわ。」



「いいってよ。田島のおばさんにも宜しくだって。」

「やったー!じゃあ、お母さんに言ってくんね。」

そう言って田島はトタトタと階段を降りた。あいつ風邪ひいてんだよなぁ。現金なやつ。まぁ、俺も嬉しいんだけど。しばらくすると、田島とおばさんが夕飯を持って一緒に上がって来た。

「あんまりたいしたものじゃないんだけど、ゆっくりしてってね!」

俺はお礼を言ってお盆を受け取った。お盆の上にはハンバーグとサラダとご飯が乗っていた。

「いっただっきまーす!」

田島は勢いよく口に押し込んでいる。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ