小説2
□見舞
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六時限目が終わり、ホームルームの時間が始まった。うちの担任の話はやたら長い。ぼーっとして聞き流していると、携帯が光った。
今日の朝練は珍しく静かだった。田島が来なかったのだ。そのときは寝坊したんだと思った。だからさほど気にも留めなかった。しかし、今メールで今日は部活を休むとの知らせが来た。風邪らしい。田島はちょっとした風邪くらいでは休まない。それなのに休むということはそんなにひどいのだろうか?しかし、熱が出て辛いときは、メールを返すのも億劫だろうから、「了解」とだけ打って返信した。
部活を終え、服を着替える。今日の練習は田島のことが気になって、あまり集中できなかった。明日は来るかな?やっぱり心配だし、メールしてみるかな。そんなことで悩んでいると、阿部が声を掛けてきた。
「花井。三橋が田島のプリント預かって来たみたいなんだ。だから、花井持ってってやってくんねーかな?」
ちょうど良かった。これならメールしなくても、プリントを持って行くついでに、様子を見ることができる。俺は了承して三橋からプリントを預かった。
「花井君、あっ、ありがと!」
「わりーな。これから三橋と話があんだ。」
そう言って二人は部室から出て行った。
俺はいつもより早く部誌を書き終わらせて、田島の家へと向かった。
田島の家に着いた。田島の家までは近いのだが、かなりスピードを出したせいか、結構息が弾む。インターホンを押すと、おばさんが出て来た。
「こんばんは!野球部の花井です。プリントを届けに参りました。」
「あら、花井君!わざわざありがとうね!」
「いえ。あの、悠一郎君の様態はどうですか?」
「えぇ、今朝は辛そうにはしてたんだけど、昼過ぎから少し良くなってきたみたい。」
「そうですか!あの、直接様子見てもいいですか」
「えぇ、それは構わないけど、風邪移るかもしれないわよ。」
「はい、大丈夫です。」
そう返事すると田島の部屋まで案内してもらった。
「田島、開けるぞ。」
返事がない。寝てるのか?今度は少し小さめの声で言って、扉を開ける。案の定ベッドの上で寝ていた。部屋は結構小綺麗に片付いていた。以外だな。教室の机の中はごみ箱のように詰め込まれているのに。おそらくおばさんが片付けているのだろう。高校生にもなって親に片付けさせるのか。呻きのような、欠伸のような声がした。
「わりー、起こしちまったか?」
「花井?何でここにいんの?」
声が嗄れている。三橋からもらったプリントを見せる。
「プリント持ってきて来れたんだ。ありがと。」
「気にすんな。見舞いも兼ねてんだし。やっぱまだ辛いか?」
「ううん。もう大分熱は退いた。まだ、声が嗄れてるけどね。」
「そっか。じゃあ、お前の睡眠邪魔すんのも悪いから、そろそろ帰るわ。」
「そんなことないよ。今日寝てばっかで、もう眠くないし。暇だからもうちょっといてよ。」
田島に頼まれると、断りにくい。それに、俺も本当はもう少し話したい。
「辛くなったり、眠たくなったら言えよ。」
そう言って部屋の中央にあるテーブルの前に座った。田島も布団から出て来て、向かい合わせに座る。
「横になってなくていいのか?」
「うん、大丈夫。ずっと寝てるのも疲れた。」
俺達は今日の部活の内容や学校での話など、他愛ないことまで喋った。そんなふうに話しているうちに、調子が戻ってきたのか、いつもの田島らしい発言が出て来た。
「あっ!俺、昨日から風邪ひいてたから、オナニーしてないんだった!ちんこ破裂したらどうしよう!」
・・・風邪ひいても、調子が良くなったら、すぐこれだもんな。
「ねぇ、花井!どうしよう?今からやろうかな?」
「馬鹿!絶対すんなよ!俺がいんだろが!それに、オナニーなんてしなくても破裂なんかしねーぞ!」
「えっ?そうなの?じゃあ精子はどこ行くの?」
「古くなったやつは分解されて吸収されんだよ。保健の授業で習っただろ?」
田島は首を横にブンブン振った。まぁ、こいつのことだから、寝てたんだろうけど。
「しかし、あれだなぁ。馬鹿は風邪ひかないって言うけど、違うな。」
「うん、そうだね。だって俺風邪ひいたもんな!」
田島でも自分が馬鹿ってことはわかってるんだ。にこにこしながら言うもんだから、なんだか可笑しい。
「よかった。これからは誰にも馬鹿って言わせないぞ!ゲンミツに!」
うん?なんか噛み合ってにいような気がする。
「何でこれからは言われないんだ?」
「え?だって俺風邪ひいたじゃん。だから俺は馬鹿じゃなかったってことだろ?」
「いや、俺は田島が風邪ひいたから、その文句は違うなって言ったんだ。つまり、馬鹿でも風邪ひくんだってこと。」
あっ、つい勢いで言ってしまった。田島がむくれている。
「あっ、いや、まぁ、そのなんだ。気にすんな。」
しかし、時既に遅し。後の祭りだ。
「なんだよー!花井まで俺のこと馬鹿って言うのかよ!」
「すまん!つい口が滑っ、じゃなくて、・・・悪かった。」
「・・・もういいよ。その代わり、一つ言うこときいてくんない?」
何をさせられるのだろう。田島の頼み事は面倒なことが多い。しかし、今回は自分に非があるため、断りづらい。
「何?」
「今日、まだ晩御飯食べてないだろ?だったら一緒に食べようよ。」
「晩飯か?うーん、うちももうできてるだろうしなぁ。ちょっと電話してみるわ。」
「いいってよ。田島のおばさんにも宜しくだって。」
「やったー!じゃあ、お母さんに言ってくんね。」
そう言って田島はトタトタと階段を降りた。あいつ風邪ひいてんだよなぁ。現金なやつ。まぁ、俺も嬉しいんだけど。しばらくすると、田島とおばさんが夕飯を持って一緒に上がって来た。
「あんまりたいしたものじゃないんだけど、ゆっくりしてってね!」
俺はお礼を言ってお盆を受け取った。お盆の上にはハンバーグとサラダとご飯が乗っていた。
「いっただっきまーす!」
田島は勢いよく口に押し込んでいる。