小説2

□想い
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部活後の部室で、三橋が

「今日の田島君、い、いつもと違う、ね。」

と言って来た。三橋の言いたいことがわからず先を促すと、三橋は、

「なっ、なんだか、元気がない、みたいだ。」

と続けた。しかし、そんな風には感じなかった。あいつはいつも通りうるさいくらいに、はしゃぎ回っていた。それに、いつもあいつのことを見てきたんだからわかる。きのせいだろ、と返すと、三橋はまだ何か言おうと口を動かとしたが、それ以上は続けなかった。






皆が着替えを終え、戸締まりをしようとすると、まだ制服などが詰め込まれたロッカーが二つあった。おそらく田島と三橋のものだ。それらには野球に関係のないと思われるものもたくさんあった。いったいどうやったらこんなになるんだ?口から溜息が漏れた。あいつらは、整理というものを知らないのだろうか?しかし、一体着替えもせずにどこにいったのだろうか。このままでは戸締まりができず、帰ることができない。本日何度目かの溜息をついて、探しに出た。






外は肌寒かった。冷気を伴った風が、足元を通り過ぎていく。もう季節は冬に片足を突っ込んでいる。冷え込みが一段と強くなっきた。さっきは涼しいぐらいだったのにな。そんな事を考えながら探していると、水呑場に二人の姿が見えた。
なにやら話しているようだった。しかし、雰囲気がいつものあいつらのそれとは違っていた。盗み聞きはよくないと知りつつも、あいつらの話が気になって隠れて聞くことにした。

「た、田島、君。何かあった、の?」

「うぇっ!?どうしてそう思うんだ?」

「う、ん。な、なんとなくなんだけど。直感っていうのか、な?」

「そっか。三橋にはわかるか。みんなには気付かれないようしてたんだけどな・・・」

それを聞いて、花井はショックを受けた。ずっと田島を見て来たはずなのに、あいつに悩みがあるなんて、気付きもしなかった・・・。それに引き換え、三橋は直感で見抜いた。俺は一体あいつのどこを見てきたんだ?心底自分が嫌になる。

少しの沈黙の後、田島は続きを話し始めた。

「あのさ、俺、好きな人が出来てさ・・・」

今度は、凍りついた。あぁ、聞くんじゃなかった。田島に悩みがあると聞いた時点でここを去れば、浅い傷で済んだのに。男同士の恋なんて叶うはずがない。そんなことはわかっていたけれど、本人の口から聞くと、さすがに落ち込んだ。

「今までは、そいつのことを友達としか思ってなかったんだ。でも、それだけじゃねぇのかなって思ってさ。なんか、そいつを見ると、もやもやっつーか、ドキドキっつーか良くわかんなかったんだよ。」

そんなの恋に決まってんだろ。

「そんで、兄ちゃんに、これってなんなのかきいたんだ。そしたら『恋じゃねぇの?』って言われたんだよな。」

もう、これ以上傷付つくのは御免だ。もう戻ろう・・・。しかし、次の言葉を聞いて歩みを止めた。

「俺も薄々は気付いてたんだけどよ。でも、信じられなくてさ。だって相手は男だぜ。そんなことあるわけないだろうって。」

えっ!?相手は男!?まじかよ!!

「お、男な、の?」
三橋は目をパチクリさせた。

「あぁ。そんで、そいつは男なわけだから、絶対叶わない恋だろ?今までそれを悩んでたわけ。」

三橋はかける言葉がみつからないのか、「あっ」、とか「うっ」とかわけのわからない声を発していた。

しばらく沈黙が続いた。すると、田島はいきなり立ち上がった。

「でもよ、俺が悩むなんてらしくねーよな!うしっ、もう考えるの止めた!当たって砕けろだ!」

田島は「ニシシ」と笑った。

「あっ、もうこんなに暗くなってる!早く帰らねーと!明日も朝練だしよ!三橋ありがとな!心配してくれて。」

「う、うん!」

二人は部室に向かって走り出した。






目覚まし時計が派手な金属音を鳴らした。

夕べ中々眠れなかった。昨日のことが、ぐるぐると頭の中でずっと回っていた。そのせいで、今眠りから覚めても、全然すっきりしない。疲れの取れていない体を起こして、朝練の支度をするためにリビングへと降りた。






今朝の冷え込みはかなりのものだった。昨日の天気予報によると十二月中旬に相当するらしい。冷たい風を切りながら自転車を漕いだ。

グラウンドに着くと、すでに一台の自転車が止められていた。これは田島のだ。あいつがこんなに早く来るなんて珍しいな。

昨日、あの後部室で田島たちと出会わないように、遅れて部室の戸締まりに向かった。田島と会うのが辛かったからだ。でも、今から必ず会うことになる。どうしよう。そんなことを考えているうちに部室の前まで来ていた。田島がいた。田島はもう練習着に着替え、とんぼをかけていた。俺はまだ心の整理がついておらず、田島と話したくなかった。挨拶だけしてそのまま部室に入ろうとした。しかし、俺の姿を見つけると、あいつはグラウンド整備を止めて、真剣な面持ちで、こっちにやってきた。視線を外さずじっと見てくる。

「な、なんだよ?」

「花井に言いたいことがあんだ。花井って好きな人いんの?」

突然そんなことを言われて、驚いた。薮から棒とは、まさにこのことだ。

「なっ、なんだよ、いきなり。」

そう返すと、

「いるの?いないの?」

とさっきよりも強い口調で問うてきた。いるよ。お前が好きだよ。そう応えるわけにもいかず、「いねぇよ。」と素っ気なく返した。すると、田島はずいっと一歩前に出て来た。

「俺は花井が好き!」

本日二度目のサプライズ。

「あ〜、緊張した。やっと言えた。」

「はっ!?ちょっと待て!今何て言った?」

「え〜っ!聞いてなかったのかよ?せっかく勇気振り絞って言ったのによぉ!」

田島は膨れっ面でそう言った。

「いや、そうじゃなくて、俺のこと好きって言ったのかって、聞いてんだ。」

「なんだ。俺は花井のことが好きだぞ。」

嬉しかった。しかし、田島のことだ。『好き』の意味が違うのかもしれない。

「それは友達としてじゃないのか?」

「違うよ。俺は花井と手繋いだり、ちゅーしたりしてーもん!」

顔が熱くなる。いや、おそらく顔だけじゃないだろう。そして、あまりの嬉しさに涙が溢れる。

「うぉっ!どうした花井!?何で泣いてんだ?・・・やっぱり男なんかに好きって言われて気持ち悪かったか?」

不安なせいか田島の声が、小さくなっていく。
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