小説2

□熱帯夜
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蒸し暑くて目が覚める。ここ数日、熱帯夜が続いている。Tシャツが肌に張り付いて、気持ち悪い。しかし、横では田島が気持ち良さそうに眠っている。やはり、猛暑の中での練習や試合は疲れるのだろう。高校時代の俺もそうだった。あの時は毎日野球漬けだった。そのために、布団に入ると何も考える事なく、すぐに眠ってしまい、朝まで起きることはなかった。

喉の渇きを潤すために、冷蔵庫へ向かう。中から冷えた麦茶を取り出し、ガラスコップになみなみと注ぎ込む。その麦茶を一口飲み込むと、喉から下へ流れていき、ひやりとして気持ち良い。コップを持ちながら、ベランダへと出る。7階の部屋から見る夜景は結構綺麗だ。赤、青、黄など様々な色のネオンが至るところで輝いている。田島もこれを見て、綺麗だと言った。しかし、あいつは都会の景色よりも、自然のある景色の方が好きなようだ。それなのに、ここを選んだのは、駅が近く、病院などの施設も充実していて、利便性が高いからだ。



1週間前、サークルの友達と昼食を摂っているとき、恋愛の話になった。大学生なのだから当然と言えば当然だ。しかし、俺はそういう話が苦手だ。田島のことをどう話していいか、わからないのだ。男と付き合っているなんて、ましてやそいつと同棲しているなんて、言えない。

「花井は彼女いないの?」

そんな質問はしょっちゅうされる。それに対していつも曖昧な返事をしている。その度に、友達に嘘をついているようで、騙しているようで自己嫌悪に陥ってしまう。そして何よりも、田島に対して罪悪感を抱いてしまう。このまま騙し続けていいのだろうか?このまま田島と付き合っていて、迷惑がかからないだろうか?これからも付き合っていけるのだろうか?今は幸せなのに、先のことで、胸が不安と疑問で埋め尽くされて、苦しくなる。



上を見上げると、星が瞬いており、雲は一つもなく晴れ渡っている。

「(俺の心と)対照的だな。」

つい独り言を呟く。

「何が対照的なの?」

突然背後から声がした。振り返ると、田島が立っていた。

「悪い、起こしちまったか?」

「ううん、大丈夫。明日は休みだし。」

「そっか。・・・いつから、そこにいたんだ?」

「ベランダの戸が開く音が聞こえたから、様子見に来たんだ。そしたら花井がいた。」

ってことは、声も掛けないで、初めからじっと見ていたんだ。

「だったら、声ぐらい掛けてくれればいいのに。」

「うん。掛けようとは思ったんだけど、何か考え込んでるみたいだったし。何考えてたの?」

「いや、ちょっとな。」

そう答えると、田島は俺を見詰めてきた。そして何も言わず、俺の隣に並んだ。

「何か悩んでんの?」

「いや、別にそんなことねーよ。気にし過ぎだって。ただ暑くて目が覚めちまっただけだよ。」

「眉毛下がってる。」

「え?」

「花井は困ったことがあったり、話逸らしたりするとき、いつもそうなってる。一年も付き合ってたらわかるよ。何かあるんだったら、ちゃんと口で言わないと伝わんないから。」

また田島は、じっとこちらを見詰めてきた。田島に真剣に迫られると、隠し通すことなんてできない。

「不安、なんだ。」

「不安?何が?」

「これからもお前と付き合ってていいのかとか、付き合っていけるのかとか。」

「何でそんなふうに思うの?俺のこと嫌いになった?」

「そうじゃない。ただ、先のことがわからないんだ。俺達、男同士でこれからも付き合っていけるのかなって。田島は男の俺なんかより、女と付き合ったほうが幸せなんじゃないのかって。そしたら、将来結婚だってできるし、お前の好きな子供だってできるかもしれない。そう考えると・・・。」

今まで悩んでいたことを全て吐き出した。少し、目が潤んでしまう。すると、田島は俺を抱き寄せた。高校のときより、幾分頭の位置が高い。

「俺は、花井といられるだけで幸せだから。花井のことが好きだし、愛してる。だから、そんなこと考える必要ないから。悩む必要なんてないから。」

我慢していた涙が、次々に溢れ出し、頬を伝った。

そのまま俺達は、しばらく無言のまま抱き合っていた。




田島に話すと随分楽になった。心の靄が晴れ渡っていった。でも、いつかまた同じような気持ちになるかもしれない。それは、男、つまり田島と付き合っているうちは、ずっと付き纏ってくるだろう。でも、それでも俺は、田島と付き合っていたい、と思う。





後書き
自分にとって、シリアスなものを書くのは難しいです。特にこの話の後半は変になってしまいました。なかなか纏まらなく、どのように終わったらいいのか、かなり悩みました。他にもたくさん上手く出来ていないところがありますが、どうぞ御勘弁願います。
最後に、皆様に謝罪と感謝を述べたい、と思います。更新を滞らせてしまい、申し訳ありませんでした。また、それにももかかわらず、このサイトを訪問して頂き、ありがとうございました。諸事情により、また更新は遅くなるかもしれませんが、また気が向いたときには、是非いらして下さい。

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