小説1

□いつか
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放課後を知らせるチャイムが鳴った。

「秋本。今日お前の部活が終わるまで、待っててもいいかな?」

「ええで。でも、急にどないしたんや?なんや用事でもあるんやったら、クラブ終わってから歩ん家に行くで。待ってたら遅うなるし、その間暇やろ?」

「ううん、待ってる。宿題とかするから、時間は潰せるし。」

「う〜ん。あっ、なんやったら、今から俺ん家でお好み焼きでも食いながら聞こか?」

「いいよ。お前クラブあるだろ?待ってるよ。」

僕は人に迷惑掛けたり、面倒を煩わせるのが嫌いだ。

「そっか、わかった。ほんなら、クラブ終わったら、可愛い歩〜を待たせんように、できるだけ早く戻ってくるわ!」

「いちいち名前を伸ばすな!それに俺は男だぞ。可愛くなんてないからな!」

すると、秋本の隣にいた蓮田が「なんや、漫才の練習か?」などと問うてきた。そんなわけない。そう意味を込めて溜息で返事した。そして、秋本は僕の言ってる事を聞いているのか、投げキッスなんかして、蓮田と一緒に教室を出て行った。
僕はとりあえず席に着いた。確か宿題は英語と数学があったはず。まず、数学から始めよう。ペンを持って取り掛かろうとすると、高原が声を掛けてきた。

「瀬田、どないしたん?まだ、帰らんのか?」

「うん、ちょっと用事があって。」

そう言うと、高原はグラウンドをちらっと見た。

「そっか。じゃあ俺は帰るわ。また、明日な。」

「うん、また明日。」

高原は結構察しがいい。もしかしたら、僕の気持ちが、秋本に傾いていることに気付いているのかもしれない。



英語と数学の宿題を終え、辺りを見回すと、教室には僕だけになっていた。窓の外を見ると、太陽は傾き、空を赤く染め上げていた。綺麗だな、なんて見ていると、グラウンドから聞き慣れた声がする。秋本だ。試合形式の練習をしている。やっぱり、あいつはサッカー上手いんだ。それなのに僕と漫才がしたいなんて、変だと思う。いや、実際に変なんだけど。

しばらくあいつを見ていた。すると段々と睡魔が襲ってきて、意識を手放してしまった。



何か、頬に刺激を感じる。目を開けると、秋本の顔があった。屈んで僕の顔を覗き込みながら、頬をつついている。

「あっ!歩、起きた?」
「何してんだよ。」

「何って、歩の頬っぺたつんつんしてただけやけど。」

「ばか。そうじゃないだろ。そんなことするなって意味だよ。それにクラブ終わったんなら、早く起こせよ。」

「いや、起こそう思うて、声掛けようとはしたんやで。でも、あまりに気持ち良さそうに寝てたから、起こすの可愛そうかなって。それに、歩の寝顔が可愛えーて、観察しとうなってん。あっ、いや、別に起きてるときの歩も可愛いんやで。そやけど、寝顔もまたええなぁって。そんで、寝顔見てたら、今度は頬っぺたが、すべすべで、ぷにぷにして、気持ち良さそうやったから、つい出来心で触ってもうてん。」

馬鹿だ。よくもこんことを恥ずかしげもなく、べらべらと喋られるもんだ。阿呆らしくなって話すの止めて、外を見た。すると、太陽は沈み、代わりに月が出ていた。時計の針は7時前を指している。

「クラブ終わったのって何時?」

「6時。」

「6時って、今もう7時前じゃないか。今まで何して・・・って、もしかして、今までずっと僕の顔を見ながら、頬っぺたをつついてたのか?」

「そうやで。なぁ、もう一回触ってもええ?」

「ふざけるな!人を玩具みたいに。もう、これから一切触れるの禁止だからな!」

秋本は「え〜」とか「嫌や〜」とか吐かした。
今頃、きっと母さんが心配しているだろう。早く帰らないと。


公園の側を歩いている。秋本は学校を出てからあまり喋らない。どうしたのだろう。すると秋本が「そう言えば、歩は俺に用があって待ってたんやないんか?」と言ってきた。秋本はこの理由を僕から話し出すのを待っていてくれたのだ。しかし、僕はどう応えればいいのか迷った。

「いや、別に用という用じゃないんだ。」

「遠慮せんかてええで。何でも聞くから。」

「うん。でも、本当に用っていうんじゃなくて、その・・・い、一緒に帰ろうかなって思ってさ。」

秋本はきょとんとしている。

「ほ、ほら、最近部活が忙しくて、全然一緒に帰ってなかったから。」

そう付け加えると、秋本は満面の笑みを浮かべた。こいつは、本当に嬉しそうに笑う。そして、その満面の笑みのままで僕を抱きしめてきた。温かくて、秋本の匂いがする。何か優しいものに包み込まれて、守られているみたいだ。以前は一方的に守られて、慰められるのは嫌だった。対等な関係になりたかった。しかし、最近ではそれに代わって、愛しいと言う感情が芽生えてきた。でも、まだ常識や意地のために素直になれない。

「歩〜!そんな嬉しいこと言うてくれるやなんて!これでやっと両想いやな!晴れて、カップルになれたんやな!」

「だ、誰がカップルだよ。そんなこと、一言も言ってないだろ!」

「え〜、一緒に帰りたいて言うたやん。」

「そ、それはただ一緒に帰りたいって思っただけで、決してお前のことが好きって意味じゃないからな。」

「う〜、ひどい!ジュリちゃんひどい!私を弄んだのね!」

「もう、それはいいから。飽きたから。」

「・・・やっぱアカンか?う〜ん、そろそろ新しいの考えんとな。」

僕たちは今日もこんな下らないことを言いながら、帰った。でも、いつかは、いつかは素直にこの気持ちを伝えよう。それまでは待っててくれよな、秋本。

「うん?どないかしたか?」

「ううん、何でもない。」

いつか、きっと。

END





後書き
なんか、よくわからないものになってしまってすみません。秋歩でほのぼの、甘めを目指したのですが、なかなか上手くいきませんでした。しかも、以前の作品と似ているところがちらほらと・・・。
こんなもので、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。またの来訪をお待ちしております。
管理人

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