小説1

□不安
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授業の終わりを知らせるチャイムが鳴った。ここ、湊第三中学校のチャイムは、時々調子がずれる。この学校には変わった奴がたくさんいるけれど、学校自体も変わっているのかもしれない。類は友を呼ぶのだ。そう思って、秋本を筆頭にロミジュリメンバーの顔を思い浮かべた。


僕は、机の中の勉強道具を鞄の中に入れた。いつも秋本は、ホームルームが終わるとすぐに、僕を教室まで迎えに来る。しかし、今日はまだ来ない。


僕は、男同士で付き合っていることがばれるのが恐い。いつばれるのか、冷や冷やする。だから、僕は、外で秋本が触れてくることを拒んでいる。拒まれても、秋本は笑って冗談を言う。だけど、たまに、悲しそうな、淋しそうな、なんとも言い難い顔をすることがある。そんな顔を見るたびに、胸がチクリと痛む。このまま拒み続けたら、秋本は僕から離れてしまったりしないだろうか。


少し不安になって、秋本の教室に向かった。すると、秋本は女の子に喋りかけられていた。結構可愛い子だ。

「ねぇねぇ、秋本君て彼女おるん?」

「う〜ん、彼女はおらんかな。」

「本間に!?じゃあ、私と付き合ってくれへん?」

「・・・ごめんな。それは無理や。」

良かった。きっぱり断ってくれた。秋本のことは信じているのだけれど、こういう場面を見ると、落ち着かない。本当に秋本は、男の僕なんかと付き合っていていいんだろうか。時々不安になる。この女の子や、湊中一美しいとされるメグにも好意を寄せられているのに。

「・・・・・・。それじゃあ、友達からでいいから。ねっ?」

そう言って、その子は必殺『上目使い』をした。少し心が波立つ。たいていの男は、この目にやられてしまうんだろう。でも、秋本には通用しないはずだ。・・・・・・多分。

「普通の友達やったらええんやけど、友達『から』って言うんがちょっとな。」

「何で?彼女おらんのよね?」

そう言って、今度は秋本の腕を掴んだ。ボディータッチだ。なんて強引なんだろう。段々苛々してきた。

「おっ、おい。ちょっと、それはまずいって!」

その子は「何で?」なんて言っている。そして、更に接近しだした。もう我慢ができなかった。目の前で自分の恋人がべたべたと触られているなんて不快過ぎる。

「秋本、帰るぞ!」

「あっ、歩!?いつからおったんや?」

僕は、その問いには答えず、秋本の掴まれている方の腕をじっと見た。

「えっ、あっ、これは誤解や!俺は何もしとらんで!」

「わかってるよ。」

「ねぇ、秋本君。この子、誰?」

「えっと、瀬田歩。歩は俺の・・・・・」

「恋人だよ。秋本は僕のものだから!」

そう言い放ち、秋本の腕を引いていった。校門まで来たところで秋本に向き直る。

「なんで振りほどかなかったんだよ。」

「いや、それは・・・。」

急に振りほどくと相手が傷付くからだってわかってる。だけど、振りほどいて欲しかった。

「バカ。」

「うっ、歩、大阪人にバカはきついで。そこはアホにせな。」

「お前なんてバカで十分だ!」

「う〜、あゆちゃんが虐める〜。」

「あゆちゃん言うな!」

「なぁなぁ、あゆちゃん。」

「・・・・・・」

こいつ全然聞いてない。

「さっき、俺のこと恋人やって言うたやんな?しかも、俺は歩のもんやって。」

しまった。つい勢い余って言ってしまった。今まで他の人にばれないようにしてたのに。まさか、僕自身が言うなんて・・・・・・。

「そそ、そんなこと、い、言うわけないやん。」

「大阪弁になってるで。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「嬉しかったで。」

先程とは違い、声のトーンが低くなっている。僕は、この声を聞くと、自然と全ての意識を秋本に向けてしまう。

「え?」

「歩にやきもち妬かれて、嬉しかった。それに、歩が俺のことを恋人や、って言うてくれたし。」

そう言って秋本は笑った。いつもより、少し柔らかい笑い方だ。

「手、繋いでええ?」

返事をする代わりに、そっと秋本の手を握る。僕よりもずっと大きくて、温かい手。

「歩と手繋いで歩くの初めてや。」

「そうだな。」

秋本の顔は、嬉しそうに笑っていた。

「そんなに嬉しいか?」

「うん、めっちゃ嬉しいで。歩と恋人同士なんやって感じる。歩は?」

「・・・嬉しい。」

そう言うと、秋本は「えへへ」と笑った。






後書き
今回は、いつもより更に上手くできませんでした。キャラクターの性格も原作から大きくて離れてしまいました。そして、ちょっと雰囲気などが急に変わり過ぎたかもしれません。ただ、『女の子に言い寄られている秋本に、歩が不安かつ嫉妬する』という内容を書きたかっただけなんです。初詣のときに、もっと上手に書けるようにお願いしよう、と思います。自分は他力本願なもんでして(笑)

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