▽tennis
□ハルノオト
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蒸し暑い夏の放課後。うるさいくらい鳴き喚く虫の声の中、全国大会に向け今日も俺達は練習に励んでいた。
休憩という声が耳に届くなりそれぞれ散っていく部員。
汗を流すため、水道へと向かう俺の耳にピアノの音がわずかに届いた。
「…?」
音に惹かれて足が勝手に動く。それはもう、吸い込まれるように。
「………」
そういえば、前にもこんなことがあった。確かあれは入学してから間もない頃だ。あの時も、同じ場所から聞こえてた。
「音楽室…」
校舎を見上げて耳を澄ませた。俺の視線の先には音楽室の、無造作に開けられた窓がある。
前はまだ音楽室の位置を把握していなかったからどこから聞こえているのかわからなかった。
ピアノがあるのは、あそこだけのはず。
―…ふと気が付けば音が消えていた。
かわりに、窓の近くに女子の姿が見える。
あの女子が弾いていたのだろうか。
音楽には特に興味がない。そんな俺が何故か惹かれた音色。懐かしいとか、そういうんじゃない。本当に、何故だかわからなかった。
「…、あ」
一瞬だけ目が合った気がした。
そりゃあ、ずっと見られてたら不思議に思うだろう。しかも俺は見えやすい位置にいる。
彼女は俺を気にも留めずに窓を閉めて去って行った。
「越前!」
「!」
遠くから桃先輩の声がした。もう休憩は終わってしまったらしい。
俺はもう一度音楽室を見て、テニスコートへと向かった。
夢の中の出来事のような感覚。
忘れそうで忘れない、俺にしては、珍しい。
昼休みの屋上で俺は寝転がって昨日の事を思い出していた。
「あ、」
小さく声がしたかと思えば出入り口の方に誰かが立っている。
「…あ」
昨日の女子だ。彼女は目を皿にして俺を見ていた。
「ご、ごめんなさいっ」
「待っ…!」
急いで屋上から去ろうとする彼女を、何故か俺は立ち上がり、引き留めた。
「え、ちぜんくん…?」
「あ…ごめん」
掴んでしまっていた腕を放して俺は彼女を見る。
というか今、俺の名前…呼んだ?
「名前、知ってるんだ」
「!!」
彼女の顔は真っ赤になって、うつむいた。
「ねぇ、昨日ピアノ弾いてたのってアンタ?」
こくりと頷く彼女。なんだか苛めているようで嫌な気分になる。
「俺…あのピアノ好き、かも」
何故だか告白をしたような気分になって、少し顔に熱が集まるのが分かった。
普段、自分から女子に話しかけることなんてないのに。本当にどうしてしまったのだろうか。
「わ、私も!越前君がすすすきだよ!!」
「……、は」
ハルノオト
「ち、ちが…!越前君のテニス!」
「………」
俺のテニスが好きだと言いたかったらしい。
彼女は恥ずかしさからか、血管が切れて死んでしまうんじゃないかというくらい顔を真っ赤にさせて俺の前から去って行った。
春の音の正体、いや、招待。
それを知った俺はテニス以外にも興味を持つようになった。
(120104)
なんとカオスな文(・ω・)!
眠いのに書くからこんなことになるんだ!!