novel

□敗北から始まる
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逃げられないように素早く正面に回り込んで後悔する。
レイヴンの読みでは、
@「寝言は寝てから言うもんだ」と、いつも通り軽くあしらわれる
A「馬鹿!ンな訳あるかよ!!」と、流行りのツンデレ相応な切り返しをされる
のどちらかだった。

しかし、実際はどちらでもなく第三肢。
ユーリは先程よりも顔を紅潮させて床を睨み付けていた。
その反応はどう見ても

図星なのかよっ!?

「ぉ、お〜い青ね…」
「…だよ」
「へ?」

床に視線を落としたままユーリが何事かを呟く。
小声だったためにそれを拾い損ね、間抜けな声を出して呆然とするレイヴン。

「そうだよ!悪いかよ!!」

噛み付くように声を上げる眼前の青年に気押されする。
キッと睨みをき利かせるその瞳は少し潤んでいるようで、体の自由を奪われてしまう。
ユーリの普段は見せない感情に触れている、人の内側にある不可侵の域を垣間見ている。

ど、どーしましょう?

流石のレイヴンも飄々とした態度が取れない。
焦りが言葉を失わせて沈黙を産み、二人を包んでいた。
その空気に耐えられなくなったのか、先に視線を逸らしたのはユーリだった。

「…悪い、冗談が過ぎた」

真剣な眼差しは伏せられて、長い睫毛が影を落とす。
少し間を空けて顔を上げたユーリはいつもと変わらない顔をしていた。
「真に受けんなよ」と苦笑いしてみせると踵を返してドアへと歩み寄る。
極自然な素振り。
しかし、レイヴンには平常を装った虚勢に感じた。

この状況、
どーしろって言うんだよ

「…何だよ」

レイヴンは咄嗟にユーリの腕を掴んで引き止めていた。
何故と聞かれてもよく分からない。
ただ、目の前にいる青年があまりにも儚く見えて胸が苦しくて、行かせてはいけない気がしたのだ。
それは一つの確かな感情を意味している。

「さっきの、本気?」

背中越しにそっと尋ねる。
自分にも同じように。
そして意を決する。

「…冗談だって、言っただろ」
「そっかぁ。残念だな…
俺様フラれちまった?」
「何、言って…」

振り返ったユーリをレイヴンは見詰めた。
今までに見せたこともないような真剣な眼差しに動揺したのか、深い紫の瞳が揺らぐ。

「おっさんは、ユーリのことが好きらしい」

聞き逃すことのないように、はっきりとした口調で告げた。
素直な感情をそのまま言葉にして。
言われて初めて気付かされた己の気持ちは、気恥ずかしいものではあるが、心地良い温もりを持っている。
それは本心で言っているからなのだろう。
今度はユーリが目を見開いて立ち尽くした。二人の視線が絡み合い、再び訪れた沈黙。
二度目のそれを破ったのは
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