novel
□浮かぶは夢か現か
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荒れる鼓動を抑えようと左胸に手を添える。
規則正しく脈打つ歪んだ命の象徴たるそれは、熱を帯びた体とは違い少しひやりとする。
呼吸を無理に調えたレイヴンは室内に視線を走らせた。
まだ夜も更けきっていないらしくはっきりとは分からないが、同室の二人は眠っているようだ。
それを確認すると深く息を吐いて改めて呼吸を調整する。
自分の呻き声で目が覚めた、なんて情けないにも程がある。
「夢に怯えるなんて、ガキじゃああるまいし…」
一人ごちるとベッドから降りて静かに部屋を後にする。
そのまま床にいたって眠れないのなら、この汗ばんだ肌と服を何とかしたかった。
宿から一歩出ると乱雑に結い上げた烏色の髪を撫でて夜風が吹き抜けてゆく。
その涼しさが心地良い。昼間は港町独特の活気に溢れた街も、今は眠っているようで、波の音だけが響いている。
レイヴンはゆっくりと道を辿りだした。行き着く先は何の変哲もない船着き場。その先に胡座わかくようにして座る。
海面にゆれるいびつな形の月を見詰めながら胸に手を置くと、トクトクと脈打つのが伝わってきた。
「はは…おっさん、らしくもないねぇ」
誰にともなく呟いた言葉は波に掠われる。
レイヴンは唇を噛んで身を屈める。
心臓の代替品たる魔導器<ブラスティア>が痛みを訴えている気がした。
頭の中でこだます声に背筋が凍りつきそうになる。