novel

□敗北から始まる
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「ハイハイっ終了ー!」

けたたましい音を立てて開かれたドアの向こうにいたリタ、だった。
因みにユーリはちゃっかりバックステップを駆使してその直撃を避けていた。

「あ、ぶないわねリタっち!何すん…」
「そりゃあこっちの台詞よ!」

レイヴンの苦情は詰め寄って来たリタによってピシャリと跳ね退けられてしまった。
真面目な話をしていただけに少々むっとするが、彼女はそんなのお構いなしだ。
不機嫌極まりない表情のままずいと眼前に指を突き立てるとまくし立てるように喋り出す。

「何流されてんのよ?こいつがどんな手段使ったかは知らないけどあんただって一端の男でしょ!?どうして男にほだされて落とされるのよ?元からそのっ気があ
った訳!?」
「…へ?どーゆー」

事態を一向に掴めないレイヴンは同意を求めて視線を後ろに向ける。
しかしそこにはいたのは予想に反し、冷静な様子のユーリ。

「オレの…負け?」
「そうね。まさか本当にやるとはね…」

何?何!?これって…

「…ちょいと、ひょっとしなくてもさぁ」

恐る恐る出した声は半分上擦っていた。ユーリが静かに溜め息を吐く。

「だから言っただろ?『冗談だ』って」

あ、遊ばれたぁー!!


どういう成り行きでかは分からないが、ユーリとリタは賭けをしていたらしい。
その内容が『ユーリはレイヴンを口説き落とせるかどうか』。
仲間が都合良く部屋にいなかったのもリタによるセッティングで、ユーリのおかしな態度も全て演技だったのだ。
そうとは知らずに一人相撲をさせられたレイヴンは至極憤っている。

「おっさんの純情を返しなさいよ!」
「騙される方が悪いのよ。あたしは知らないから〜」

リタは涼しい顔をして部屋を出て行く。
ドアを閉められてしまうと矛先はもう一人の当事者(レイヴンからしたら加害者)に向けられた。
当のユーリは何事もなかったかのように窓枠に腰掛けて仏頂面をしている。
「落ちない」と断言していた彼は賭けに負けたのだ。

「何で落ちるんだよ…」
「青年よー、人を非難する前に謝ろうや」

こっちが被害者なのっとレイヴンは軽く横目で睨む。

騙されただけならまだ良かった。
あの涙目も、震えた声も、
全て作りもののニセモノ。
でも、
自分が口にした想いはホンモノ。
気付かぬ間に生まれていた感情な
のだから、どうすることもできない。

「…おっさんは本気、なんだっけ?」
「そうよー。それをからかうなんてヒトデナシだわー」

流石に申し訳なく感じたのか、不意にユーリが問うてくる。
レイヴンはぷいと視線を逸らしてこれみよがしに答えた。
めいっぱいの嫌味を込めて。

「じゃ、落としてみろよ」

すぐ近くで声がしたかと思うと顔を引かれる。
黒い髪がパサリと触れるその距離は先程よりも近い。

「オレを、落としてみな」

困惑するレイヴンを見つめるその顔はまさに小悪魔のように愛らしくも憎らしい。
早鐘を打つ胸を押さえると「頑張れよ?」と笑われた。

どうやら、とんでもない青年に心を奪われらしい。
こうして、おっさんの奮闘は幕を上げたのだった。



人生経験は豊富だと思ってたけど

また妙なのが増えたわ…

悔しいから

サクッと惚れさせてやるんだから!
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