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□償いの道
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「…詮索は後にしましょう。今はこの状況をなんとかしないと」
「だから、一体どういうことなんだよ!?」
 カインの疑問をよそに、アレンはリーナの手を握ると、呪文の詠唱を始める。すると、彼女は力なくその場に座り込んだ。
「大丈夫ですか、准尉」
「あ、わ、私は…」
 虚ろな目で辺りを見回すが、すぐにハッとした顔で頭を下げる。
「申し訳ありません、レイチェル様の護衛を命じられていながら、私は…!」
「お話はあとでゆっくりと聞きましょう。少なくともあと一人…『紅き風』のメンバーがこの街にいるはずです。そいつを探し出さないと…」
「さっきの奴だけじゃないのか?」
「おそらく…この街全体に魔力が漂っているようです。そう広くない範囲でしょうが、だからと言って程度の低い力ではありません」
 アレンの言葉に、しばらく考えを巡らせるセレス。今なら街から逃げることも出来る。
「この街になにか異変があるなら…それが『紅き風』にもたらされているのなら、止めないわけにはいかないだろう」
 槍を握ると、それを覆っていた布を取り払う。それを空に突き上げると、声高く叫んだ。
「来い、『紅き風』!小細工などせずとも、俺は逃げない!」
 誰もいない朝のメインストリートに響く声。それに導かれた影が一つ、彼らの右側から現われた。
「一人…?」
 カインが剣を抜くと、どちらから相手にするか見定める。
「アレン、どうだ?」
 小声で相方に話し掛けるも、彼は静かに首をふった。
「違います、魔法の使い手ではありませんね」
「なら、俺が時間を稼ぐ間に…」
「わかりました。3人を頼みますよ」
「大丈夫か?」
「ええ。ですが手助けが早いと助かります」
「わかった」
 短いやりとりを済ませると、今度は男に声を掛けるカイン。
「用があるんだったら、早くしてくれない?俺たちあんま時間ないんだよねー」
「まあそう焦るなよ。もうすぐ面白いもんがみれるだろうからさ」
 そう言いながらゆっくりセレスに近付く男を牽制しようと剣を向けると、ふいに背後から殺気を感じた。とっさに振り返ってその刃を剣で受ける。
「はっ、よく気付いたな」
「そりゃ、後ろから誰かに見られてる気はしてたし」
 カインは小柄な男の刃を力で弾き返すと、セレスと背中を合わせる。先程現われた男も、セレスと向かい合い、大剣を構えていた。
「カイン、そっちは任せたぞ」
「わかりました…が、前のような無理はしないでくださいよ?」
 以前、斧使いに襲われ重傷を負った時のことを思い出し、くすりとカインが笑う。
「大丈夫さ、多分」
 ぐ、と握り締めた槍を構え、まっすぐ相手を見据えるセレス。余裕を感じさせる笑みすら浮かべる、その男の出方を待った。
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