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□償いの道
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「あいつ…?」
 5人全員が自身に気付いたことを確認すると、男は軽々と屋根の上から降りてきた。そして唖然とする彼らに笑顔で一礼する。
「はじめまして、ヤルウェと申します。レイチェル様をお迎えに参上しました」
「レイチェルを?…なっ」
 ヤルウェを名乗った男は言葉を切ると、突然セレスに切りかかった。セレスは咄嗟に槍で受ける。その隙にカインがナイフを取り上げようとするが、ギリギリ手が届かないところでそれをかわすと、後ろに下がって間合いをとる。
「やはり、『紅き風』の構成員ですか」
 忌々しげにアレンが呟くと、ヤルウェは頷いた。
「その通り。さあレイチェル様、クレアスが待ってますよ」
「わ、私は…」
「迷うことはないでしょう。それとも、やはり父上と兄上の仇はご自身で取るおつもりで?」
「仇?」
「そうでしょう?そこにいるセレス王子が早くに死んでくだされば、マルシーユ帝国は潰れることなく、ラウル帝もゲイル皇子も亡くなる事はなかったでしょう?」
「な…貴様っ!」
 その言葉に怒りを覚えたカインが剣を抜き払うが、ヤルウェはそれを避けるとナイフを投げる。それはカインの剣に叩き落とされたが、ヤルウェの顔からは笑顔が消えていた。
「事実でしょう。帝国が滅んだ原因はセレスの存在そのものにある」
「それは…」
 セレスの表情に影がさす。事実、ゲイル皇子を操り直接手を下したのは宰相フォードだが、そうさせたのはセレスの存在そのものだというのだ。
「…違います!」
 その時、セレスの後ろでレイチェルが叫んだ。
「お父様は戦争のない平和な世界を作りたいとよく仰っていました。セレス様と同じように…しかしそれを踏みにじったのはフォードです…」
「しかし、レイチェル様…」
「私はマルシーユの皇族の地位も身分も捨てました。マルシーユを再興するつもりはありません」
 レイチェルの言葉を聞き、ぐ、と言葉を飲み込むヤルウェ。ため息をつくと後ずさりを始める。
「今はそのつもりでも、人の気持ちは変わるものですからね…僕たちはいつでもレイチェル様をお待ちしていますよ?」
「あ…テメェっ!」
 言い終えるか終えないかのうちに一目散に逃げ出すヤルウェをカインが追いかけようとするが、セレスがとめた。
「放っておいてもいいだろう、こっちは怪我もなにもない」
「まあそれはともかく…准尉」
「は、はい!?」
 アレンがそっとリーナの手に触れ、それを下に降ろす。その手に握られた銃口は、レイチェルに向けられていた。
「よくぞ撃たないでいてくれました」
「ちょっ…どいうことだよ!?」
「言ったでしょう、『紅き風』の罠にはめられたと…まさか准尉までこうなるとは予想外でしたが」
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