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□その手で開くもの
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「ふむ…これは酷い有様ですな」
 現場となったディウォールを視察しにきたマルクス大佐は、村に着くなり眉間にシワをよせた。
「村人が逃げ延びた後、このような状態にしていったのでしょうな…」
「ところで大佐、気になることがあるんだけど…」
「は、何でございましょう?」
 村人が近くにいないことを確かめた上で、セレスは小声でマルクスに問い掛けた。
「そのマルシーユ兵らしい連中は関所の方面へ逃げたらしいんだが、俺たちはそういう連中と接触していないんだ」
 ディウォールの周辺は西は急流で知られるタガル川、東はセレスたちが通ってきた関所しかない。地区の境界となる関所は、高い壁が続いたり山を開いた場所にあるため、不正に関所を越えるのは難しい。タガル川は氾濫しており、2日たってようやく渡れるようになってた。それも流れが緩やかな場所を探すのに苦労したらしい。
「しかし殿下、奴等は関所を通る際に人数を分散した可能性もありますな。さすればさほど目立たずにすむでしょう」
「ああ、それもそうだな…」
「マルクス大佐!」
 憲兵が一人、マルクスに駆け寄って耳打ちをする。彼は一言わかった、と答えると憲兵を下がらせた。
「殿下、ディウォールを襲ったと思われる一味のうち、一人名前がわかりました」
「一人、か?」
「はい。以前ディウォールに駐留していた帝国兵の一人だったようです」
「ああ、確かそんな話を聞いたな…」
「至急、関所に通過記録があるか確認させます」
「ああ、それからファルネスにも問い合わせを…帝国兵が何人か捕らえられているはずだ。知っている人間がいるかもしれない」
「御意にございます」
 アルバートに対して反乱や問題行動を起こす者のほとんどは帝国兵だった。知っていればなんらかの手掛かりを得られるかもしれない。
「…待てよ?農作物はどうやって?」
「セレス様?どうかされました?」
 声にハッとして振り返ると、レイチェルが紅茶を手に首をかしげている。
「レイチェルか…」
「…やはり、マルシーユの兵なのでしょうか」
「今のところは…でもなあ」
「何か?」
「村から奪った農作物はどうやって、どこに運んだんだろう?人数を分散させても、盗られた量を考えると一人が持つ分は少なくないぞ…」
「馬車を使ったのではないでしょうか?」
「どうだろう、村で使っていたやつは何故か無事だったようだし」
 あらかじめ自分たちで用意していたかもしれないが、積み込むにも時間がかかるはずだ。村人がいつもどってくるかわからない状況では、一刻も早くその場を立ち去りたいはずだ。
「それとも…戻って来ない保証でもあったのか…?」
「セレス様、レイチェル様!」
 考え込んでいると、今度はリーナが走って来た。手に何か握っている。
「どうしたんだ?」
「これを村の北にある森の近くで見つけたんです。村で作っている作物の一つで…」
「ラルドの実か。とすると、もしかして…」
 その時、マルクスがセレスの元へ来た。関所に向かった憲兵が戻ったようだ。
「殿下、関所を通った者で、それと思しき団体はやはりありませんでした。馬車を使った者もいないようです」
「そうか…ならば大佐、ここと避難場所に警備を何人か残して、残りを北の森に向かわせてもらえないか」
「森…ですか。かまいませんが、何故そのような場所に?」
「…案外、早く犯人がわかるかもしれない」
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