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□その手で開くもの
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 2日前の15月20日。ディウォールはよく晴れた朝を迎えた。老若男女問わず、各々の畑を耕し、種を植え、あるいは肥料を与えて収穫する。
「フィルモードさんじゃないか、昨日戻ったんだってね」
「やあ。いろいろ心配かけたね」
「お店を再開するための資金、やっと貯まったのよ」
「そりゃよかった、また前のように騒ぎたいもんだな」
 いつもと変わらないその日の夕方、珍しい出来事に気付いた若者がいた。
「あれ…」
 自宅の最上階で片付けをしながらふと窓の外をみると、何かを担いだ集団が村に近付いて来るのが見えた。
「旅人の一団?にしては人数が多いなぁ」
 一般的には、冒険者や旅人は数人のパーティを組んで行動する。多くても5、6人程度だが、その集団は10人以上はいる。
「違うパーティが共同で仕事をしてるのか?まあ今日はここに泊まってくんだろうな…」
 予想通り、集団は宿屋を兼ねた村長の家へと入っていく。異変が起きたのはその夜だった。
「大変だー!村長の家で火事だ!」
 突然のことに村中が騒然となる中、燃える家から村長はなんとか逃げ延びたが、しかし炎は勢いを増していく。
「と、とにかく火を消さないと!」
 動ける住民が総出となって消火作業をした結果、村長の家は母屋を全焼しただけで怪我人はいなかった。しかし、その間に別の場所で被害が生まれていた。村長の家に泊まっていたはずの集団が、畑や民家を荒らしていたのだ。
 ディウォールは決して人口が多い村ではない。年老いて働けなくなった者、幼い子供たちもいる。村を荒らす集団を相手に戦おうとする者がいたが、武器になりそうなものは農具しかない。農業を生業とする彼らにとっては、農具は生活必需品であり、ここで戦って壊されるよりはと、持てるものだけでも手にとって全員で逃げ出した。
「だめだ、向こうは見張りがいる!」
 関所の方面へ続く道はその集団に占拠され、西のタガル川は大雨の影響で氾濫している。仕方なく水が引くのを待ち、ムラクスまで助けを求めることになった。

 フリッツの話を聞きながら、セレス達はディウォールの住民が避難している場所にやってきた。
「リーナ!?」
「父さん、母さん!良かった、無事だったのね」
「ああ、なんとかね…ということは…」 リーナに駆け寄ってきた二人が、ゆっくりとセレス達に顔を向ける。すぐにアルバートの王子であることが住民に知らされ、全員がその場に跪く。
「事情は聞きました。どうか、あまり気を落とさないように」
「セレス様、北部支部に連絡がつきました。今日中にはここに来れるそうです」「わかった、ご苦労」
 ディウォール周辺は、憲兵団の北部支部の管轄になっている。デュークからあらかじめ連絡先を聞いていたアレンが通信魔法具で通報したのだ。
「では、橋が直ったんでしょうか」
「いえ、水が引いたようなので流れが緩やかな場所を歩いて渡るとか…あ、皆さんは詳しい話を聞くためにここにいてほしいということです」
 アレンが憲兵団に連絡を取っている間、セレス以外の三人は被害の状況を聞き出していた。
「農作物は根こそぎ持っていかれたようです」
「ディウォールの作物は売ればそれなりのお金になるからな。金目当ての可能性が高いな…」
「しかし、その集団が暴れたのは夜だったんでしょう?なぜはっきりマルシーユの兵士とわかったんですか?」
「以前、村に駐留していた帝国兵がいたんです。俺たちの顔を見て動揺してましたし…」
 ディウォールにいた兵士なら、農村と知っている。アルバートから逃れる途中、食料を求めてのことだろう。
「こんなところかな…セレス様、これからどうしますか?」
「少し気になることがあるんだ。しばらくここに滞在したいんだが」
「…やっぱりね。実はアレンも同じようなことを言ってるんです。女性陣も反対されなかったんで、じゃその方向でいきますか」
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