メイン小説

□想いを一つに
3ページ/14ページ

 フランクの息子、ザイル=ディールバスはその日の夕方、友人の家から帰る途中に数人の覆面をした者に襲われたらしい。
 ディールバスの命を受けて使用人が宿に来ていた。
「犯人は今のところわかりません。しかしこれが…」
 カインが差し出したのは、犯人がディールバス邸に投げ込んだと思われる手紙の写し。その使用人が書き写したもので、原文は館にあるらしい。
「それはわざわざ…」
―――息子は預かっている。命が惜しければオリハルコンを明朝朝日が昇りきるまでにサンカレス広場の噴水に用意せよ。なお、その運び手には滞在中のセレス王子を指名する―――
 文章は簡潔そのものだ。何故セレスがこの街にいることを知っているのかはわからないが、こうなった以上は解決するまで街を出ることは出来ない。
「ディールバス卿は何と?」
「坊ちゃんの命がかかっているのなら仕方がないと…オリハルコンを運ぶための道具を用意しています」
 オリハルコン自体が軽量の金属であるため、ディールバスが所有している量ならばセレスが一人で運んでも問題ない。
 しかし両手が塞がる上に武器を持つこともできないため、もし犯人に襲われたときに太刀打ち出来ないのだ。もちろん犯人側もそれを狙っているのだろうが、セレスが危険に晒される事態に頭を抱えざるを得ない。
「広場にあるのは噴水だけです。相手が指定する時間に外に出る者はあまりいないでしょうが…」
 噴水のまわりに身を隠すようなものはない。しかし朝日が昇るまでだから当然視界も悪くなる。それに犯人がいつオリハルコンを取りに姿を現すかわからないのだ。
「日中になれば人通りも多くなります。もし犯人が人込みにまぎれて…」
「それならこちらも人込みにまぎれて見張るしかないだろうな」
 その時に犯人を追いかけることも可能だが、人質の命がかかっている。犯人の指示に従うほかないというのがディールバスの意見のようだ。
「俺もそれが一番だと思う、オリハルコンは確かに貴重な金属だが人の命には…」
 相手の狙いはあくまでオリハルコンだろうというセレスのその言葉に、はぁ…、とアレンが溜め息をつく。もともとセレスがこういう性格だとわかってはいたのだが。
「セレス様、王は個人よりも全体のことを考えなければいけません。しかし…」
 人の命を盾にするようなことを許してもいけません―――その言葉に頷くと、セレスは立ち上がった。
「取りあえず、卿の館へ行こう。明日の作戦を細かく決めないと」

 館は重苦しい空気に包まれていた。ディールバスは子煩悩で、一人っ子ということもあり大層可愛がられているようだ。母親は食事も喉を通らず、部屋に閉じこもり息子の無事を祈り続けている。
 セレスとカインを育てたのはカインの父親の部下の一人で、臣下てしとの立場を忘れない人間だった。特にセレスとカインの関係に厳しく、親というより教育係。また二人の母親も早くに亡くなり、親の愛情を受けずに育ってきたセレスたちにとってはザイルが羨ましく思えてならない場所でもあった。
「セレス様、この度はこのようなことに…」
「いえ、心中察するに余りある…犯人が何故私がこの街にいることを知ったのかはわからないが…」 人質がいるのなら放ってはおけない、出来ることであれば協力する。そう言ったセレスに少し安堵しつつも、時間は迫る。オリハルコンの入った箱の状態を何度も確かめ、その時を待った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ