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□想いを一つに
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「申し訳ありませんが、武器を造りたいということでしたら、お断りいたします」
 その男―――フランク=ディールバスはそう言った。一国の王子の頼みをこうもきっぱり断るのにはそれなりの度胸が必要だ。事と次第によっては即、首をはねられても文句は言えない。だが、彼にはそれだけの信念があった。
「理由は先日そちらの方にもお話したとおりでございます」
 争いのない国を目指すといいながら、何故武器を求めるのか。矛盾しているとも思えるその理由に、フランクは首を横に振るばかり。
 たとえアルバートとしてその気がなくとも、他国から攻められた際に国を守るために必要になると説明しても、納得しそうにない。
「海を越えた南のハイゼル王国では、海産物を隣国のセゾル王国に提供することで、見返りに守られています。アルバートもそれに倣っては?」
 ハイゼル王国は海産物の輸出国として有名な国だ。人口は大陸で一番少なく、ほとんどが水産業や農業に従事しているため軍事面には手が回らず、輸出向けの産物の半分以上を東のセゾル王国に回すことで結果的にセゾルに守られている。アルバートがそれに倣うということは、現在ある軍を縮小することになり、反発にあうことが必至だ。
「それに隣のディオル皇国はセゾルを潰すことにしか興味がないようですし…さしあたってアルバートが軍事的危機に陥ることもないでしょう」
 よって、武器など必要なく、オリハルコンを渡す理由はない。それに、と言いかけて一瞬言葉を止めたが、呆れ気味に言い放った。
「一国の王子ともあろうお方が、公務を放り出して冒険者という野蛮で卑しき身分で旅をなさるとは…地方のことなど領主にまかせ、殿下はファルネスで気ままに暮らしてくださってけっこうなのですよ?」
 その言葉をかみ締めながら、また来ますとだけ告げて屋敷を後にした。

 カインが怒っていたのはおおよそそのことだったのだろう。
 公務を放り出す―――セレスが一番言われたくない言葉であり、一番自覚していることでもあった。確かにそれは事実なのだ。やったことと言えば、学校を作るという案を出しただけだった。それ以来、冒険者としての仕事に追われ、ほんの少し市民の暮らし振りを垣間見ているだけである。これでいいのか、国に戻るべきなのか…セレスが薄々と考えてきたことは、彼の言葉ではっきりと自分の中で具現化している。
「人のいう事に左右される。セレス様の悪いクセじゃないですか?」
 宿のベランダで夜風に当たるセレスに、隣の部屋からアレンが顔をのぞかせる。
「僕は、この度は無駄になることはないと思いますよ」
 むしろ無駄にしないと決めています、とアレンはニッコリと笑った。
「この旅自体が公務だと思えばいいんです。フィリアもわかってくれていますよ」
「…そうだな。彼が大統領になってくれてよかったよ」
 セレスが部屋の中に戻った時、下から階段を駆け上がる音が聞こえた。その音の主はセレスの部屋の前で止まると少し乱暴にノックをする。
「セレス様!いらっしゃいますか!?」
「ああ、カインか?開いてるぞ」
 勢いよくドアを開けたカインは、息を切らし少し青ざめている。
「大変です。あの貴族の…オリハルコンの持ち主、フランク=ディールバスの子供が誘拐されました」
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