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□求めるは父の影
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 BANG!BANG!BANG!
「ぐあぁっ!」
 斧の動きが止まった瞬間、セレスは剣を引き抜いて男と対峙した。男の背後はカインが取り、右後方ではレイチェルをかばいながらリーナがピストルを向けている。
「…あえて急所ははずしました。これ以上危害を加えるようなら次は急所を狙いますよ」
「貴様ぁ…」
 銃弾を受けた右腕をもろともせず、斧を持ち上げまっすぐセレスに振り下ろす。彼の動体視力と運動神経ならかろうじてかわすことはできたはずだが、セレスはその場を動こうとしない。
「セレス様、何をして…っ!」
 落ちてくる斧を剣で受け止めるが、男との力の差がありすぎるのか徐々に下へ下へと押し込まれる。
「くっ…まだか、アレン!」
 カインが横から斬りかかる。しかしそれを片手でつかむと、剣を取り上げカインを殴りつけた。
「ぐはっ…」
「カイン!」
 あわててレイチェルが駆け寄るが、手がしびれたのかカインは剣を握れずにいる。
「なんて奴だ、あの体制から…」
「このままでは…リーナさん!」
「申し訳ありません、ピストルがジャムを!」
 これだから古い銃は、と何とか弾を出そうとするが、時間がない。セレスの剣にわずかにヒビが入っていく。
「これで…終わりにしてやる!」
 斧を両手で持ち替え、一瞬だけ持ち上げると再び振り下ろされる。
「セレス様!逃げてーッ!」
 誰かがそう叫んだのと同時に、青い剣が砕け、セレスの肩に黒い斧が食い込んだ。
「ぐっ…あああぁぁぁッ!」
 服は赤く染まり、白い閃光が伸び、誰のものともつかない悲鳴がこだまする。次の瞬間、斧の男は斧を転がして草原の上でのびていた。
「アレン!」
「強めの魔法を当てました、しばらくは起き上がれないはずです、それより…」
 左肩から多量の血を流しながら、アレンの上で気を失っているセレスを寝かせる。気を集中させて回復魔法をかけるが、利く気配がない。
「どういうことだ、手遅れなのかよ!?」
 セレスの顔は青くなる一方で、辺りには血の海が広がるばかりである。
「そんなバカな…!とにかく止血を!」
 リーナとレイチェルが布切れを集めて止血をする間、アレンが男の斧に目をやる。持ち上げようとするが、彼一人では重過ぎるらしい。
「カイン、手伝ってください!これ…」
「あ、ああ…」
 セレスの側まで運ぶと、持っていた水をかけて血を洗い流す。黒光りする魔法石が現れ、それをみたアレンが顔をしかめる。
「やはり、これか…」
「黒い魔法石…?」
「黒は闇属性の魔法の色です…こうなったらああするしか…」
「何なんだ?」
「詳しい説明はあとで、今は一刻を争います、僕の指示に従ってください」
「ああ、わかった」
「精霊たちよ、皆も力を貸してください…」
 アレンの右手首についている、魔宝石が白く輝く。やがてそれが広がりアレンの全身を包み込む。
「聖なる白き精霊よ、我に力を与えたまえ…この者に聖なる祝福を、忌まわしき呪いの力から解放したまえ…」
 白い光はアレンの元からセレスへと移りはじめ、やがて傷口を包むようにして光り輝いた。黒い塊が、傷口から白い光に包まれて這い出るように浮き出てくる。
「これは…?」
「それに触らないでください、呪いが降りかかりますよ。聖魔法の結界で押さえ込んでいる間は触りさえしなければ大丈夫ですが…」
 しばらくして、回復魔法がようやく効果を現し傷口をふさいでいく。しかしこれで安心はできない。傷自体は深いもので、神経や内臓に傷が残っている可能性がある。
「その呪いの力で回復魔法が利かないようになっていたようです…これで出血は止まるでしょうが…」
 幸いにも街は近く、そこでちゃんとした治療を受けることができる。カインがセレスを背負うと、レイチェルとリーナが折れたセレスの剣の破片を広い集めていた。
「よかった、これは無事でしたか…」
 アレンの足元に落ちていたのは、剣の塚に埋め込まれていた宝玉それを握りつぶやいた。
「竜神よ、どうかセレス様をお守りください…」
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