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□憎しみの代償
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「魔道士だ…」
「本物?」
 4人を取り巻く好奇の目。魔道士がめずらしいわけではないのだが、魔法は一般人に扱えるものではない。魔力が高いのはもちろんのこと、何年もかかる修行をつまなければ、思いどうりに使いこなすことはできないのだ。
「ええ、僕は魔道士ですが…それがなにか?」
 警備員の質問に答えるアレンの目は、冷たく光っている。おそらく、彼にとってこんな経験は一度や二度ではないらしい。平静を保っている。
「実は、僕も魔力が高くて魔道士向きって言われたことがあるんですよ。どこに行けば魔法を習えるんですか?」
 セレスたちよりは年上だが、まだ若い。二十歳前後だろうか。子供のように嬉しそうな顔をしている。
「それは、僕にもわかりません。僕の魔道の師はすでに亡くなりましたので…」
 魔道士に憧れているのか、その目がまぶしくてアレンは目を逸らした。苦笑しながら、そのままセレスたちに目を向ける。
「それに、習う事が出来ても修行は大変ですよ。魔力が高いくらいじゃ魔道士にはなれません」
 そうですか、とショボンと背を向けて、警備員はその場を去った。いつのまにか、4人を囲んでいた人々もいなくなり、海賊たちが手を縛られて警備艇に乗せられている。
「やれやれ…今時魔道士になりたいって人がいるんですね」
 苦笑いのままのアレン。右手首についている魔法具をにらみつけ、そして空を見上げる。その魔法具は、今は亡き師匠に唯一もらったもの。いわば形見である。
「ああやって怖がられるだけだっていうのに…」
 その顔はどこかさみしそうだ。魔道士の数は年々減りつつある。魔道士たちが住む集落もあるが、魔法を使えない側にしてみれば、手品師か、あるいは何でもできる神様のような目で見られることもある。もちろん万能の力ではないが、理解のない人からはその力ゆえに恐れられる事もある。
「…後悔してるか?」
 そう問い掛けるセレスも、どこか悲しそうな顔をしていた。聞いてはまずかったかと、その目がといかけている。
「後悔?してませんよ。みなさんと出会えたのもこの力のおかげですしね」

 やがて船は何事もなかったかのように、ガーネットへと到着した。荷を降ろす人たちの中で、レイチェルがせわしなく、あたりをキョロキョロししている。
「レイチェル、どうしたんだ?」
 ハッととてセレスのいる方向をみると、彼らの荷物はすでにまとめられていた。
「すみません、お手伝いもしなくて…」
「いいんですよ、こういうのは俺とアレンに任せてください」
 アハハっと笑うと、カインは荷物を背負って歩き出した。
「今日はここで一泊ですね。宿屋はどこかな…」
 ガイドマップを見つけると、食い入るようにみつめている。
「おっ、ここだ!さ、行きましょう!」

 カインを先頭に、宿屋へ向かう。部屋をとり、ロビーで夕食となった。しかし、ここでもレイチェルは落ち着いていない様子だ。
「あの、セレス様…」
「なんだ?」
「船を下りた頃から…誰かに見られている気がするんです」
 突然のことに、3人は驚く顔をする…と思いきや、実は3人ともそれに気付いていた。
「何人か、同じ船に乗ってた人がいますけど…そいつらじゃないんですか?」
 街についた時はすでに夕方になっていた。旅をしている人間ならば、たいていは宿をとって休みそうなころあいである。
「…そうだといいんですけど…」
「なんか、冷たい感じがするな」
「冷たい?」
「ああ。憎悪が篭っているような気がするんだ」
 ふむ、と頭を抱えるアレン。魔道士であるからか、魔道の師が占い師であったからか、人間の感情や、「第六感」的なことはこの4人で一番敏感な少年である。
「確かに。セレス様のおっしゃる通りですね…僕らの素性を知っている人間…かもしれません」
 彼らの素性をしるもの。王子であるセレスが旅に出ていることは、多くの街で噂されているが、一般市民ぶは顔まではあまり知られていない。しかし…。
「帝国の人間…か?」
 セレスが倒した国、レイチェルの故郷。セレスを敵視する理由がある帝国。
「ビクビクしていても仕方ありません。周囲に気をくばり、それらしい気配に注意しましょう」
 少しだけ、彼らの心臓の鼓動が早くなっていた。
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