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□憎しみの代償
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 港には多くの船が泊まっている。ガーネットに向かう定期便は1日に4往復し、4人はその2便目に乗ることができた。
「間に合ってよかったですね、しばらくの船旅を楽しみましょう」
 そのバーロ海と呼ばれるその海には、無人島らしい島がひとつあるだけで、穏やかな海だ。同時にそこには多くのサメが生息している。
「船が通るとよってくるんだな。落ちたらひとたまりもない…」
 甲板から海を覗き込み、サメの一群とにらみ合うカイン。ヒラヒラ、と手を振ると、セレスの声に振り返った。
「なぁ、向こうから来る船も定期船か?」
 船の右手方向から船影が見えた。旗が見えないが、一見ごく普通の船に見える。しかし、カインの感は別の方向に働いた。
「どうでしょう、ガーネットから来るものではありませんね、方向が違います…」
「ほかからも定期船がくるのか?」
「しかし、あの方向は…」
 ようやく旗が見える位置まで近づいてくると、アレンの表情が一変した。ドクロマーク。定番の海賊船である。
「…オイオイ、やっぱりかよ」
「しまった…狙われていたようですね」
「海賊船?どうする?」
 船にある救命ボートは全部で20。一つに20名まで乗船できるので、この船の客全員を十分にカバーできる。
「下手に逃げようとしても混乱するだけだろう…警備の船も着いているし…大丈夫だとは思うが」
「万が一戦闘になり、離れ離れになってもいいように、これを」
 アレンが差し出したのは銀色の魔法石。
「一種の通信魔法具です、離れ離れになってもこれで連絡を取り合えますから…」
 アレンの言葉が終わるか終わらないうちに、大砲の音がなり響いた。甲板にいた客が一気に騒然となる。周囲の警備艇が海賊船に大砲を向けていく。
「今のうちだ、救命ボートに…うわわっ」
 船が大きく揺れた。バランスをくずして倒れる者、突然の海賊の襲撃に落ち着きをなくす者があふれかえる。
「く…みんな、大丈夫か!?」
 幸い通信魔法具を使う自体にはならなそうだが、救命ボートを争って早くも揉め事が起こっている。
「このままじゃまずいだろ、海賊の思う壺だ…!」
 警備艇の攻撃を諸共せず、あっと言う間に船に乗り込んでくる海賊たち。あたりに悲鳴が響き渡る。
「アレン!」
「わかっています、しかし…」
 アレンの魔法ならば海賊だけの動きを止めることができる。しかし、怒号、悲鳴が響き渡る中で集中して力を使うことができない。客を巻き込んでしまう可能性もあるのだ。
「わかった…カイン、レイチェルを頼む」
「はい…ってセレス様!?」
「何をされるおつもりなんですか!?」
 件を抜き、アレンの腕を取る。
「もし海賊が近づいてくるようなら俺が振り払う。頼むぞ」
「はい、わかりました」
 それをみたカインがやれやれ、とため息をついた。
「まったく、その役なら俺に任せてくれればいいのに…」
 その横でレイチェルもはにかんでいる。
「それだけカインさんの信頼が厚いということですよ」
「ま、それはうれしいですけどね。レイチェル様になにかあったら俺もただじゃすみませんからね…俺のそばを離れないように」
「はい」

 目を閉じ、両手に力を集中する。幸い、海風が吹いている。自然の力をかり、群集の中にいる殺意だけを感じ取る。
「あれと、そこと………よし…風の精霊よ、われに力を…!」
 船の上を駆け抜ける一陣の風。見事に海賊だけの周りにまとわりつく。
「うわっ、なんだぁ!?」
 あたりで海賊がのたうちまわる。そのうち、警備員が海賊たちを捕らえ、縛り上げていった。
「ヒュー♪成功だな、アレン」
 カインがからかうようにアレンを振り返る。
「やめてくださいよ、僕はまだまだ…」
 そこに、警備員が一人近づいてきた。
「あの、今のはあなたが…?」
「え?」
「あの、今の、魔法…ですよね?」
 その瞬間、周囲がざわつきはじめる。
「魔法…?」
「あの子、魔道士なの?」
 警備員の一言で、4人は注目の的となった。
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